ファウィザー
~ ルビーアイランド女王の物語 ~
「私の王国のため、この世界でも女王になるわ。」
「こんなに長い時間、本を読んだのは生まれて初めてだわ。」
私は目をこすりながら王宮の執事セバスチャンをちらりと見た。セバスチャンは微動だにせず、かび臭い古書を夢中になって読んでいる。
「ピッピッ ビビビッ」
「無礼よ、セバスチャン。女王にそのような振る舞いをするなんて!」
「ピッビビッ ピッ」
「分かったわよ…、探せばいいんでしょ。」
私はセバスチャンの小言に再び古代妖精語が書かれた厚い本に視線を向けた。
聞きたくなくてもセバスチャンの言うことは合っている。一日でも早く世界移動の魔法陣を突き止めないといけない。私の国、愛する故郷、ルビーアイランドの滅亡を防ぐために。
私は妖精王国、ルビーアイランドの“予備”女王、ファウィザーだ。“女王”の前にこうした曖昧な単語がつく理由は、まだ即位式をしていないからだ。本来ならば、すぐに即位式をしなければならないが、今のルビーアイランドの状況は…。
本を読んでいると、ふと忘れようとしていた王国の現実が思い出され、胸がつまった。絶体絶命の危機に面しているルビーアイランドでは、妖精たちがしきりに消滅している。
ルビーアイランドでは、伝説のような悲劇が伝えられている。それは妖精ではない者たちが妖精を信じなければ、私たちは消滅してしまうということだ。その悲劇が私の時代で現実になるとは夢にも思わなかった。実に弱い生命体に違いない。誰かが妖精を信じさえすれば500年は軽く生きられるが、信じられなければ跡形もなく消えてしまうのが私たちの運命だったのだ。
セバスチャンと私が、古書を読み漁り魔法陣を探している理由はそれだ。他の世界に行き、私たちの存在を直接見せて信じさせるため。そして、何よりも先に妖精たちの消滅を防ぎ、堂々と戻ってきてから華麗な即位式をする予定だ。
***
ドンー ずっと静かだったセバスチャンが持っていた本を落とした。
「ほら、本も落として。なぜそんな滑りやすい手袋をしてるの?」
その瞬間。セバスチャンは故障したかのように何も言葉を発しなかった。まさか、消滅の兆しなのかと不吉な考えがよぎり立ち上がった時、セバスチャンは小さい声で言った。
「…ピッビッ」
ああ…。セバスチャンの『ルビーアイランドの執事のアティチュード』は…。驚いた心が落ち着くと、女王を心配させたことが許せなかった。でも、セバスチャンが無理をしていることは事実。少し彼を本から離すついでに話をした。
「森の中の椅子まで散歩でもしよう、セバスチャン」
私の華麗な椅子は、いつでも森の奥深い場所に威風堂々と置いてある。
以前と異なるところは、もう椅子の周りで妖精たちが笑い、ざわめく音を聞くことができないということだけ…。私はしばらく考え込んで椅子をなでた。
「ピッピッ ビビッ」
なぜ女王にならないといけないのかと、ぎこちなく話しかけてくるのを見ると、静かな森の中がセバスチャンも慣れないようだ。
「何を今更。女王はいつだって私の運命だった。この椅子に座って、ルビーアイランドの
妖精たちの面倒を見ること。」
「ピッ ピビビッ」
「ただ派手な椅子が好きなんだと思ったって?セバスチャン、私を何だと思ってるの?」
私はセバスチャンを激しくにらんだ。セバスチャンはもじもじして何か決心したかのように言った。
「ビッ ビビッ ピビッ…ピビッ…」
何?実は魔法陣を描く方法を見つけたと?
***
こうして突然旅立つことになるとは思わなかった。
「ピッビビッ ピッピッピッ」
セバスチャンは、私に今すぐ出発しなければならないと言った。今夜を逃すと、次の機会は196年8カ月後だと。
「ところで、なぜすぐに言わなかったの!?」
「ビビビビビビビッ」
私は小さくなっていくセバスチャンの声に耳を傾けた。
「私が…本気なのか、女王の運命を受け入れる準備ができたのか心配になった?」
私は椅子に座り、顔を背けるセバスチャンを見下ろした。セバスチャンは、私の怒りを避けるかのように魔法陣を描くのに熱中していた。しかし、腹が立つのは。
「やっぱりルビーアイランドの執事のアティチュード」
王宮の執事なら、このくらいの慎重さは必要でしょ。
「ひとまず分かったわ。あなたの好きにしてみて。」
「ピッビビビッ…ピッピッビビッ!」
明るくなった表情でセバスチャンは言った。
「あなたが合図をくれたら魔法陣に飛び込めばいいのね?」
セバスチャンは頷き、すぐに古代妖精語をつぶやき始めた。ゆらめいていた部屋の中の空気が一瞬で青黒い光に変わり、魔法陣の上で徐々に渦巻き始めた。
「ピーッ」
セバスチャンの合図に、私はためらうことなく青黒い光の中に体を投じた。
「待って!その世界に行って、どうやって妖精の存在を知らせればいいの?」
セバスチャンを見たが、既に魔法陣は移動を始めていた。一瞬で黒い闇が全世界を飲み込み、一人の少女の声が聞こえた。
『ついに門を見つけたのね。』
「…!あなたは誰?」
少女は、答える代わりに私を導くように歌い始めた。初めて聴く歌声。しかし、少女の声は、懐かしいような心地いい声だった。次第に心が落ち着くと、初めて見る色とりどりの場面が目の前を通り過ぎていった。
生まれて初めて見る変わった服装の少女たち、小さいけど何よりも光り輝く棒を持った数多くの人たち、そして故国に帰ってきて王座に再び座る私の姿。まるで私の未来を予見するかのような形象を見て、誓いがよみがえった。
私、ルビーアイランドの女王・ファウィザー、ここでも女王になる。妖精の存在を知らない人が一人もいないように一番中心に立つんだ。
~ ルビーアイランド
女王の物語 ~
「私の王国のため、
この世界でも女王になるわ。」
「こんなに長い時間、本を読んだのは生まれて
初めてだわ。」
私は目をこすりながら王宮の執事セバスチャンをちらりと見た。セバスチャンは微動だにせず、かび臭い古書を夢中になって読んでいる。
「ピッピッ ビビビッ」
「無礼よ、セバスチャン。女王にそのような
振る舞いをするなんて!」
「ピッビビッ ピッ」
「分かったわよ…、探せばいいんでしょ。」
私はセバスチャンの小言に再び古代妖精語が書かれた厚い本に視線を向けた。
聞きたくなくてもセバスチャンの言うことは合っている。一日でも早く世界移動の魔法陣を突き止めないといけない。私の国、愛する故郷、ルビーアイランドの滅亡を防ぐために。
私は妖精王国、ルビーアイランドの“予備”女王、ファウィザーだ。“女王”の前にこうした曖昧な単語がつく理由は、まだ即位式をしていないからだ。本来ならば、すぐに即位式をしなければならないが、今のルビーアイランドの状況は…。
本を読んでいると、ふと忘れようとしていた王国の現実が思い出され、胸がつまった。絶体絶命の危機に面しているルビーアイランドでは、妖精たちがしきりに消滅している。
ルビーアイランドでは、伝説のような悲劇が伝えられている。それは妖精ではない者たちが妖精を信じなければ、私たちは消滅してしまうということだ。その悲劇が私の時代で現実になるとは夢にも思わなかった。実に弱い生命体に違いない。誰かが妖精を信じさえすれば500年は軽く生きられるが、信じられなければ跡形もなく消えてしまうのが私たちの運命だったのだ。
セバスチャンと私が、古書を読み漁り魔法陣を探している理由はそれだ。他の世界に行き、私たちの存在を直接見せて信じさせるため。そして、何よりも先に妖精たちの消滅を防ぎ、堂々と戻ってきてから華麗な即位式をする予定だ。
***
ドンー ずっと静かだったセバスチャンが持っていた本を落とした。
「ほら、本も落として。なぜそんな滑りやすい
手袋をしてるの?」
その瞬間。セバスチャンは故障したかのように何も言葉を発しなかった。まさか、消滅の兆しなのかと不吉な考えがよぎり立ち上がった時、セバスチャンは小さい声で言った。
「…ピッビッ」
ああ…。セバスチャンの『ルビーアイランドの執事のアティチュード』は…。驚いた心が落ち着くと、女王を心配させたことが許せなかった。でも、セバスチャンが無理をしていることは事実。少し彼を本から離すついでに話をした。
「森の中の椅子まで散歩でもしよう、セバスチャン」
私の華麗な椅子は、いつでも森の奥深い場所に威風堂々と置いてある。
以前と異なるところは、もう椅子の周りで妖精たちが笑い、ざわめく音を聞くことができないということだけ…。私はしばらく考え込んで椅子をなでた。
「ピッピッ ビビッ」
なぜ女王にならないといけないのかと、ぎこちなく話しかけてくるのを見ると、静かな森の中がセバスチャンも慣れないようだ。
「何を今更。女王はいつだって私の運命だった。
この椅子に座って、ルビーアイランドの妖精たちの
面倒を見ること。」
「ピッ ピビビッ」
「ただ派手な椅子が好きなんだと思ったって?
セバスチャン、私を何だと思ってるの?」
私はセバスチャンを激しくにらんだ。セバスチャンはもじもじして何か決心したかのように言った。
「ビッ ビビッ ピビッ…ピビッ…」
何?実は魔法陣を描く方法を見つけたと?
***
こうして突然旅立つことになるとは思わなかった。
「ピッビビッ ピッピッピッ」
セバスチャンは、私に今すぐ出発しなければならないと言った。今夜を逃すと、次の機会は196年8カ月後だと。
「ところで、なぜすぐに言わなかったの!?」
「ビビビビビビビッ」
私は小さくなっていくセバスチャンの声に耳を傾けた。
「私が…本気なのか、女王の運命を受け入れる
準備ができたのか心配になった?」
私は椅子に座り、顔を背けるセバスチャンを見下ろした。セバスチャンは、私の怒りを避けるかのように魔法陣を描くのに熱中していた。しかし、腹が立つのは。
「やっぱりルビーアイランドの
執事のアティチュード」
王宮の執事なら、このくらいの慎重さは必要でしょ。
「ひとまず分かったわ。
あなたの好きにしてみて。」
「ピッビビビッ…ピッピッビビッ!」
明るくなった表情でセバスチャンは言った。
「あなたが合図をくれたら魔法陣に飛び込めば
いいのね?」
セバスチャンは頷き、すぐに古代妖精語をつぶやき始めた。ゆらめいていた部屋の中の空気が一瞬で青黒い光に変わり、魔法陣の上で徐々に渦巻き始めた。
「ピーッ」
セバスチャンの合図に、私はためらうことなく青黒い光の中に体を投じた。
「待って!その世界に行って、どうやって妖精の
存在を知らせればいいの?」
セバスチャンを見たが、既に魔法陣は移動を始めていた。一瞬で黒い闇が全世界を飲み込み、一人の少女の声が聞こえた。
『ついに門を見つけたのね。』
「…!あなたは誰?」
少女は、答える代わりに私を導くように歌い始めた。初めて聴く歌声。しかし、少女の声は、懐かしいような心地いい声だった。次第に心が落ち着くと、初めて見る色とりどりの場面が目の前を通り過ぎていった。
生まれて初めて見る変わった服装の少女たち、小さいけど何よりも光り輝く棒を持った数多くの人たち、そして故国に帰ってきて王座に再び座る私の姿。まるで私の未来を予見するかのような形象を見て、誓いがよみがえった。
私、ルビーアイランドの女王・ファウィザー、ここでも女王になる。妖精の存在を知らない人が一人もいないように一番中心に立つんだ。