キキ
~ チアリーダー少女の物語 ~
「笑顔の花が必要な場所なら…私、キキが行かないとね!」
「キキ、今日も残って踊るつもり?」
「キキのことは誰も止められないよ。じゃあ先に帰るね~」
私は最後のストレッチを一旦やめて、競技場を出ていく団員たちに元気よく手を振った。
(今日は本当にみんな最高だった!)
ペチャクチャとおしゃべりしながら出ていく団員たちの後ろ姿を見ると、胸がいっぱいで笑顔が漏れた。初めはどうしたらいいか分からなかったスタントの動きも、魔法のように息がぴったりと合った。皆が、休み返上で練習した甲斐のある素晴らしい日だった。
しかし、何よりも私がうれしかったのは、『笑顔の花が満開の顔!』
ぴりっとした逆転勝ちを収め、歓喜した選手たちの顔。隣の人と肩を組んで楽しそうに応援歌を歌っていた観客たちの顔。高難度のスタントの動きをやり遂げ、お互いに目を合わせ笑い合った団員たち。
いくらここが笑顔の本場、ハハランドだとしてもこんなにたくさんの人が同時に明るく笑う姿は毎日見られるものではないの!キキキキ、今日は本当にハッピーな日だ!
***
(よし!それでは始めようかな?)
試合が終わり、空っぽになった舞台で踊るのは、私が世界で一番好きなことだ。観衆も選手もいない、この静かな場所で、試合中の歓声と笑い声が残る残像を感じられるからだ。私は運動靴をしっかりと履き直して競技場の真ん中に設置された舞台に上がり、深呼吸をした。
観衆がいる時と同じいい緊張感、競技場に吹く涼しい風が額をくすぐった。
今度は音楽の助けを受ける番だ。アンプをつけるとリズミカルな拍手の音をベースにした軽快な導入部が流れた。パパーン!強烈なトランペットの音とともに音楽の変奏が始まると、私は迷いのないステップで踊り始めた。1・2で上半身ウェーブ、再びエレキのサウンドで雰囲気転換するとパワフルなバウンス!反動で私の体が力強く跳ね上がるたびに二つに結んだ私の髪の毛も一緒に楽しそうに踊った。
ダンスというのは、本当に不思議だ。一度リズムに乗った体は、頭で考えるよりも前に水が流れるように次の動きへと移行する。まるで、私が楽譜の上の音符になって踊っている感じ、音楽と一つになった気分。ドラムの拍子が早くなるにつれ、音楽が徐々に高潮した。キビキビと手足を使ったサビの振り付けが繰り返され、フィナーレは空に向かってガッツポーズを決めておしまい!
どれだけ踊っただろうか。乱れた呼吸を整え、額にたまった汗を拭いた。
(キキキキ、すごく楽しい!)
ここ数週間は練習のために一人で踊りたい曲をためこんでいたが、今日そのプレイリストを撃破する楽しさがあった。
私はしばらく呼吸を整えて舞台の端に腰かけ、風で汗を冷やした。しかし、急に目の前が見えなくなった。
(え?!)
芝生の球場の上に落ちていた新聞が風で舞い上がり、汗で濡れた私の顔に張り付いたのだ。
[笑顔の花、世界的に減少中…対策が急がれる]
(ハハ日報、77**年7月7日付)
見出しを見るなり、飛んでいきそうなほど軽かった私の心が重たくなった。笑顔の花が消えていくことは世界的に深刻な問題で、心配ということ知らないハハランドの人の顔にも影を落とす問題だからだ。
幸いまだハハランドには今までと変わりなく毎日ポップコーンのような笑顔の花が咲いているが、私たちの世界の外では、これ以上笑顔の花の下落を止めることができない状況だという。この影響がハハランドにも来るだろうか。
(私が他の世界にも笑顔の花を咲かせられたらいいのに。)
K.I!K.I!飛び上がれ、高く~
K.I!K.I!笑って~ YEAH!
私の応援一発でみんなキキキキ笑うのに。その瞬間、競技場の電光掲示版と非常灯がかすかにちらついた。
(競技場が閉まる時間かしら?)
***
体を起こして残った練習を終わらせたら、いつの間にか日が暮れていた。私は、水筒と応援道具をカバンに入れて観客席側のメインゲートに向かった。
(おなか空いた!)
夜ごはんのメニューに悩みながら、ゲートを通過しようとした瞬間、どこからかじりじりという音が聞こえてきた。同時に、ゲートは青い光で揺れ始めた。
これは…一体何なの?
『キキ!笑顔の花を咲かせに行かない?』
光が揺れるゲートの中から、少女の声が聞こえてきた。
「あ、あなたは誰なの?それに、これは…何?」
『私はあなたを待っていたわ。これは、笑顔の花が必要な場所へあなたを連れていって
くれる門よ。』
「私を待っていたって?」
『そう。私はあなたの声を聞いて、やって来たの。笑顔の花を咲かせたいんでしょ?』
「そうだけど…待って。全く理解できないわ。これは、どこにつながっているの?」
「さあね。多分一番笑顔の花が必要な場所に行くんじゃないかな?」
クククと笑う少女の笑い声が、ゲートを通して聞こえてきた。私は自分の頬をつねってみた。イタタ…。夢の中でも痛みを感じられるんだっけ?この光るゲートは一体何だろう?
『キキ、チャンスはたった一度よ。私と一緒に行く?』
少女の声が再び聞こえた。
一緒に笑顔の花を咲かせようという少女の声が、頭に回った。初めて聞く声についていくのは正直怖いが、怖さよりも期待が先立った。私は黄色い靴ひもをしっかりと結び直して、慎重に青い光がゆらめくゲートの中に飛び込んだ。
「笑顔の花が必要な場所なら…私、キキが行かないとね!」
~ チアリーダー少女の物語 ~
「笑顔の花が必要な場所なら…
私、キキが行かないとね!」
「キキ、今日も残って踊るつもり?」
「キキのことは誰も止められないよ。
じゃあ先に帰るね~」
私は最後のストレッチを一旦やめて、競技場を出ていく団員たちに元気よく手を振った。
(今日は本当にみんな最高だった!)
ペチャクチャとおしゃべりしながら出ていく団員たちの後ろ姿を見ると、胸がいっぱいで笑顔が漏れた。初めはどうしたらいいか分からなかったスタントの動きも、魔法のように息がぴったりと合った。皆が、休み返上で練習した甲斐のある素晴らしい日だった。
しかし、何よりも私がうれしかったのは、『笑顔の花が満開の顔!』
ぴりっとした逆転勝ちを収め、歓喜した選手たちの顔。隣の人と肩を組んで楽しそうに応援歌を歌っていた観客たちの顔。高難度のスタントの動きをやり遂げ、お互いに目を合わせ笑い合った団員たち。
いくらここが笑顔の本場、ハハランドだとしてもこんなにたくさんの人が同時に明るく笑う姿は毎日見られるものではないの!キキキキ、今日は本当にハッピーな日だ!
***
(よし!それでは始めようかな?)
試合が終わり、空っぽになった舞台で踊るのは、私が世界で一番好きなことだ。観衆も選手もいない、この静かな場所で、試合中の歓声と笑い声が残る残像を感じられるからだ。私は運動靴をしっかりと履き直して競技場の真ん中に設置された舞台に上がり、深呼吸をした。
観衆がいる時と同じいい緊張感、競技場に吹く涼しい風が額をくすぐった。
今度は音楽の助けを受ける番だ。アンプをつけるとリズミカルな拍手の音をベースにした軽快な導入部が流れた。パパーン!強烈なトランペットの音とともに音楽の変奏が始まると、私は迷いのないステップで踊り始めた。1・2で上半身ウェーブ、再びエレキのサウンドで雰囲気転換するとパワフルなバウンス!反動で私の体が力強く跳ね上がるたびに二つに結んだ私の髪の毛も一緒に楽しそうに踊った。
ダンスというのは、本当に不思議だ。一度リズムに乗った体は、頭で考えるよりも前に水が流れるように次の動きへと移行する。まるで、私が楽譜の上の音符になって踊っている感じ、音楽と一つになった気分。ドラムの拍子が早くなるにつれ、音楽が徐々に高潮した。キビキビと手足を使ったサビの振り付けが繰り返され、フィナーレは空に向かってガッツポーズを決めておしまい!
どれだけ踊っただろうか。乱れた呼吸を整え、額にたまった汗を拭いた。
(キキキキ、すごく楽しい!)
ここ数週間は練習のために一人で踊りたい曲をためこんでいたが、今日そのプレイリストを撃破する楽しさがあった。
私はしばらく呼吸を整えて舞台の端に腰かけ、風で汗を冷やした。しかし、急に目の前が見えなくなった。
(え?!)
芝生の球場の上に落ちていた新聞が風で舞い上がり、汗で濡れた私の顔に張り付いたのだ。
[笑顔の花、世界的に減少中…
対策が急がれる]
(ハハ日報、77**年7月7日付)
見出しを見るなり、飛んでいきそうなほど軽かった私の心が重たくなった。笑顔の花が消えていくことは世界的に深刻な問題で、心配ということ知らないハハランドの人の顔にも影を落とす問題だからだ。
幸いまだハハランドには今までと変わりなく毎日ポップコーンのような笑顔の花が咲いているが、私たちの世界の外では、これ以上笑顔の花の下落を止めることができない状況だという。この影響がハハランドにも来るだろうか。
(私が他の世界にも笑顔の花を咲かせられたら
いいのに。)
K.I!K.I!飛び上がれ、高く~
K.I!K.I!笑って~ YEAH!
私の応援一発でみんなキキキキ笑うのに。その瞬間、競技場の電光掲示版と非常灯がかすかにちらついた。
(競技場が閉まる時間かしら?)
***
体を起こして残った練習を終わらせたら、いつの間にか日が暮れていた。私は、水筒と応援道具をカバンに入れて観客席側のメインゲートに向かった。
(おなか空いた!)
夜ごはんのメニューに悩みながら、ゲートを通過しようとした瞬間、どこからかじりじりという音が聞こえてきた。同時に、ゲートは青い光で揺れ始めた。
これは…一体何なの?
『キキ!笑顔の花を咲かせに行かない?』
光が揺れるゲートの中から、少女の声が聞こえてきた。
「あ、あなたは誰なの?それに、これは…何?」
『私はあなたを待っていたわ。これは、笑顔の花が
必要な場所へあなたを連れていってくれる門よ。』
「私を待っていたって?」
『そう。私はあなたの声を聞いて、やって来たの。
笑顔の花を咲かせたいんでしょ?』
「そうだけど…待って。全く理解できないわ。
これは、どこにつながっているの?」
「さあね。多分一番笑顔の花が必要な場所に
行くんじゃないかな?」
クククと笑う少女の笑い声が、ゲートを通して聞こえてきた。私は自分の頬をつねってみた。イタタ…。夢の中でも痛みを感じられるんだっけ?この光るゲートは一体何だろう?
『キキ、チャンスはたった一度よ。
私と一緒に行く?』
少女の声が再び聞こえた。
一緒に笑顔の花を咲かせようという少女の声が、頭に回った。初めて聞く声についていくのは正直怖いが、怖さよりも期待が先立った。私は黄色い靴ひもをしっかりと結び直して、慎重に青い光がゆらめくゲートの中に飛び込んだ。
「笑顔の花が必要な場所なら…
私、キキが行かないとね!」