チェリー
~ 森の中のおやゆび姫の物語 ~
「私の長所が何か分かる?賢いことよ。」
「私の料理ほどおいしいものはないわ…」
ため息をついてうつ伏せになってしまった。オーブンでは甘いチェリーパイが焼かれている。甘い香りがだんだんとキッチンに広がっているのに、それを食べてくれる人がいないなんて。ありえない。
チン…タイマーの軽快な音が鳴る。ちょっと待って、挫折は一旦停止。今はパイを確認しないと。料理はタイミングが命だから。オーブンミトンをしっかりはめて慎重にパイを取り出した。結果は?聞くだけ無駄よ。当然、大成功。
「見て、このビジュアル!とってもおいしそうでしょ?」
自慢気にカッコよくパイを持ち上げた。温かくて甘い香りを漂わせるチェリーパイ。
しかし、このチェリーパイを食べてくれる人も、おいしそうと褒めてくれる人も、私のひとり言に答えてくれる人もいなかった。力なくチェリーパイを置いた。本当に本当に美しく、本当に本当においしくできたけど、多分このパイも誰にも食べてもらえないまま冷めて捨てることになるよね?
「地球さん、ごめんなさい!森さん、ごめんなさい!でも!一番謝るべきはチェリーを寂しくさせてるこの世界よ!」
訳もなく空に向かって怒ってみた。いくら何事にも肯定的な私でも、こんな風にずっと一人でいることは耐えられない。
「誰か何とかして…」
うるんだ目で罪のないチェリーパイをちらりと見た。パイは焼き立ての状態のまま、少しずつ冷めていった。
***
このままではダメだと思い、方法を探すことにした。パイを作ろうと早起きしたせいで少し眠くなってきたが、睡眠は死んでからすればいい。座ってばかりいたら、何も起こらない。オーブンを温めないとパイは焼けないから!
私はキッチンではなく書斎に向かった。この終わりのない孤独を克服する方法は必ずあるはず。本棚には料理のレシピ本で溢れていた。最近読んでいるものからホコリをかぶった古い本もある。こんなものが役に立つか分からないが、やってみないと分からない。あまり手に取らないものから一つ一つ探ってみた。
こうして1日、2日、3日…
ホコリをかぶり、開くだけで咳が出るような本ほど、面白いレシピが多かった。初めて見る料理。これも作ってみたいし、あれも作ってみたい。その時だった。これは何だろう?チキン?サッカーの試合の日や会社帰りに食べたくなる人気メニューか。
レシピ本を一生懸命探していると一つの特徴が見えてきた。それは、過去に行くほど、大人数で一緒に食べる料理のレシピが多いということ。ということは…、ここと違って、過去は人が多かったということ?そこには、私の料理を一緒に食べてくれる人も多いだろうか?
「そうだ、過去に戻る料理を作るんだ!」
その瞬間、数日間使われず冷たくなったオーブンの中から見慣れない青い光が輝き始めた。
***
「私の長所が何か分かる?賢いことよ。」
過去に関する勉強は終わった。レシピ本の間には面白い本が多かった。
いくつかの時代について勉強をしてみたけど、その中でも私が興味を持ったのは2022年。歌って、踊って、自分だけのレシピも共有し、楽しく暮らす人が多いようだ。
私はそこに行く。そして2022年を生きる人に一番人気のある話題はアイドルだったみたいね。それなら、私もアイドルにならないと。ここで会えなかった人たちに、たくさん会うんだ。
アイドルになるためには、いくつか必要な要素がある。カッコいいラップと歌の実力、誠実さ、そして特技。
「何だ~、もう全部備えてるわ。」
これまでこの森の中の小さな家でさびしく過ごしてきたのは、ここを離れてアイドルになれという神の啓示ではないだろうか?なぜなら、私は既にアイドルになる準備ができてるから!
確信ができた。私が向かうべき場所、それから私がなるべきものに対する確信が。
オーブンの前に近づいた。青い光がほのかに放たれていたオーブンの中から、今ではまぶしいくらいの明るい光が溢れていた。
「見たところ…、私を新しい場所へ連れていってくれるようだけど。そうでしょ?」
オーブンのドアを大きく開けた。青い光の先に何があるのかよく見えなかったが、耳をすますととてもカッコいいラップが聞こえてきた。ビートから声まで全て私の好みだ。誰がこんなカッコいいラップをするんだろう?すぐに行って会ってみたい。私の初めての友達になるかも?
その瞬間、まるで膨らんだパン生地がさっと消えるように、青い光が一瞬にして消えた。だけど、私はこんなことで挫折しない。なぜなら、私はしっかり勉強しておいたから。
「あなた、もしかして私の実力を疑ってる?見せようか?外見はこんなにラブリーだけど、ラップはパワフルなのよ!」
ウンウン。のどの調子を整えて。勉強中に見つけた、私が一番好きなラップを聞かせてあげることにした。
パーにした手を扇いで上下に
この頃 観客は私に拍手喝采テロ
隠す必要はない かすれた声を起こして
ピース 私はチョキ 痛みを切り取る
一小節を歌うと、やはり。青い光がこれまでよりも強烈にオーブンの中から広がり始めた。やっぱり!分かったでしょ?!
「さぁ、私を連れていって。人がたくさんたくさんいるところへ!」
躊躇なく体をかがめてオーブンの中へ、青い光の中へ潜り込んでいく。ドキドキ。ワクワクする気持ちと準備したチキンをいっぱいに抱えて。
~ 森の中のおやゆび姫の物語 ~
「私の長所が何か分かる?賢いことよ。」
「私の料理ほどおいしいものはないわ…」
ため息をついてうつ伏せになってしまった。オーブンでは甘いチェリーパイが焼かれている。甘い香りがだんだんとキッチンに広がっているのに、それを食べてくれる人がいないなんて。ありえない。
チン…タイマーの軽快な音が鳴る。ちょっと待って、挫折は一旦停止。今はパイを確認しないと。料理はタイミングが命だから。オーブンミトンをしっかりはめて慎重にパイを取り出した。結果は?聞くだけ無駄よ。当然、大成功。
「見て、このビジュアル!
とってもおいしそうでしょ?」
自慢気にカッコよくパイを持ち上げた。温かくて甘い香りを漂わせるチェリーパイ。
しかし、このチェリーパイを食べてくれる人も、おいしそうと褒めてくれる人も、私のひとり言に答えてくれる人もいなかった。力なくチェリーパイを置いた。本当に本当に美しく、本当に本当においしくできたけど、多分このパイも誰にも食べてもらえないまま冷めて捨てることになるよね?
「地球さん、ごめんなさい!
森さん、ごめんなさい!
でも!一番謝るべきはチェリーを
寂しくさせてるこの世界よ!」
訳もなく空に向かって怒ってみた。いくら何事にも肯定的な私でも、こんな風にずっと一人でいることは耐えられない。
「誰か何とかして…」
うるんだ目で罪のないチェリーパイをちらりと見た。パイは焼き立ての状態のまま、少しずつ冷めていった。
***
このままではダメだと思い、方法を探すことにした。パイを作ろうと早起きしたせいで少し眠くなってきたが、睡眠は死んでからすればいい。座ってばかりいたら、何も起こらない。オーブンを温めないとパイは焼けないから!
私はキッチンではなく書斎に向かった。この終わりのない孤独を克服する方法は必ずあるはず。本棚には料理のレシピ本で溢れていた。最近読んでいるものからホコリをかぶった古い本もある。こんなものが役に立つか分からないが、やってみないと分からない。あまり手に取らないものから一つ一つ探ってみた。
こうして1日、2日、3日…
ホコリをかぶり、開くだけで咳が出るような本ほど、面白いレシピが多かった。初めて見る料理。これも作ってみたいし、あれも作ってみたい。その時だった。これは何だろう?チキン?サッカーの試合の日や会社帰りに食べたくなる人気メニューか。
レシピ本を一生懸命探していると一つの特徴が見えてきた。それは、過去に行くほど、大人数で一緒に食べる料理のレシピが多いということ。ということは…、ここと違って、過去は人が多かったということ?そこには、私の料理を一緒に食べてくれる人も多いだろうか?
「そうだ、過去に戻る料理を作るんだ!」
その瞬間、数日間使われず冷たくなったオーブンの中から見慣れない青い光が輝き始めた。
***
「私の長所が何か分かる?賢いことよ。」
過去に関する勉強は終わった。レシピ本の間には面白い本が多かった。
いくつかの時代について勉強をしてみたけど、その中でも私が興味を持ったのは2022年。歌って、踊って、自分だけのレシピも共有し、楽しく暮らす人が多いようだ。
私はそこに行く。そして2022年を生きる人に一番人気のある話題はアイドルだったみたいね。それなら、私もアイドルにならないと。ここで会えなかった人たちに、たくさん会うんだ。
アイドルになるためには、いくつか必要な要素がある。カッコいいラップと歌の実力、誠実さ、そして特技。
「何だ~、もう全部備えてるわ。」
これまでこの森の中の小さな家でさびしく過ごしてきたのは、ここを離れてアイドルになれという神の啓示ではないだろうか?なぜなら、私は既にアイドルになる準備ができてるから!
確信ができた。私が向かうべき場所、それから私がなるべきものに対する確信が。
オーブンの前に近づいた。青い光がほのかに放たれていたオーブンの中から、今ではまぶしいくらいの明るい光が溢れていた。
「見たところ…、私を新しい場所へ
連れていってくれるようだけど。
そうでしょ?」
オーブンのドアを大きく開けた。青い光の先に何があるのかよく見えなかったが、耳をすますととてもカッコいいラップが聞こえてきた。ビートから声まで全て私の好みだ。誰がこんなカッコいいラップをするんだろう?すぐに行って会ってみたい。私の初めての友達になるかも?
その瞬間、まるで膨らんだパン生地がさっと消えるように、青い光が一瞬にして消えた。だけど、私はこんなことで挫折しない。なぜなら、私はしっかり勉強しておいたから。
「あなた、もしかして私の実力を疑ってる?
見せようか?
外見はこんなにラブリーだけど、
ラップはパワフルなのよ!」
ウンウン。のどの調子を整えて。勉強中に見つけた、私が一番好きなラップを聞かせてあげることにした。
パーにした手を扇いで上下に
この頃 観客は私に拍手喝采テロ
隠す必要はない かすれた声を起こして
ピース 私はチョキ 痛みを切り取る
一小節を歌うと、やはり。青い光がこれまでよりも強烈にオーブンの中から広がり始めた。やっぱり!分かったでしょ?!
「さぁ、私を連れていって。
人がたくさんたくさんいるところへ!」
躊躇なく体をかがめてオーブンの中へ、青い光の中へ潜り込んでいく。ドキドキ。ワクワクする気持ちと準備したチキンをいっぱいに抱えて。