ジャル
～ 除名された魔女の物語 ～
「こうなった以上、もっと未来の明るい市場に行くわ！」
「ねえ、聞いて。私の名前がジャルなのに、魔女になれないってありえる？」
カクテル2杯目。アルコールが入ったせいか普段よりも口数が増えている感じはするが、今それは重要ではない。私は今とても怒っているから！
「いや、私の口数が多いのは今に始まったことじゃないし、それは罪でもない。それなのに急に除名だなんて。どういうこと？」
これも３回くらい言ったと思うけど？でも、気にせず、悔しい気持ちを全部吐き出すことにした。だから、今日はお酒も高い物を注文したの。
「本当に…悔しくて悲しい。私ほどホウキに上手に乗れる人はいないわ。魔女が天職なのよ。」
そう、魔女が天職！ホウキマスター！
1592年から今までホウキに乗らせたら右に出る者はいない天才魔女！
ジャルという名前だって、ホウキ（ピッジャル）に由来しているからホウキの実力は誰も疑わない。幼い頃は、名前にふさわしい魔女だとよく褒められたのに…
「でも天職ではないかも。それは私に才能がないからではなくて…世の中が私を分かってくれないということよ…」
憂鬱さが一気に押し寄せ、そのままバーに伏せてしまった。バーテンダーが、サービスとして新しいカクテルを差し出した。この店は、よく気遣ってくれる。おしゃべりをしても文句を言うこともない。だから常連になったの…鮮やかな色どりのお酒がたっぷり入ったグラスにささっているストローの端を少しかじり、そのままお酒を飲んだ。
これからどうやって生きていこう？未来が真っ暗だ。
＊＊＊
私はジャル。431歳。
長い間、魔女として生きてきたけど、これからは魔女ではなく、新しい職業を探さないといけない。まず、私が長いこと魔女として活動できた理由は、私の卓越したホウキの実力のおかげだった。しかし、昨年初めてホウキ大会で下位グループに入り脱落してしまった。確かに魔女市場も低迷しており、未来が見えない職業リストに数年間名を連ねているから、むしろよかった。
しかし、いくらそうだとしても、こんな取るに足らない理由で、一瞬にして能力のある魔女を追い払うなんて。もういいわ。私はもっと未来の明るい市場に行く！
そうして、求人情報をやみくもに調べてみたが、適当な職業は見当たらなかった。
しかも、天職だと思っていた職業で切られたという事実がしきりにちらつき、全く集中できない。名前、ジャル。職業、魔女。特技、ホウキ乗り。その他のスペックは…。魔女業界にかなり長くいたが、実は目立った実績があるほうではなかった。履歴書を書く上で、その事実をより実感した。
しかし、誓って能力不足のせいではない！市場の流れに乗り損ねただけだ。魔女にとって最も重要な能力がホウキ乗りだった時代は随分と前に過ぎ去った。技術の発展により、ホウキよりも効率のいい交通手段がたくさんできた。ホウキ乗りは、伝統を守るための一種のショーのようなものだ。
恐らくそれで嫌がられたんだろう。成果もなくおしゃべりの多い魔女だと思われて。これは私の魅力の一つだと思ったのに。そう思う人が誰もいなかった。また憂鬱な考えが頭の中を支配し始めた。ダメダメ。振り落とさないと。
テレビをつけると、何かにぎやかなものを見れば複雑な頭の中も整理ができる。少しだけ休憩して、また仕事を探せばいい。何も考えずに、チャンネルを変えていた時、美しい歌声が耳と目を惹きつけた。
「そうよ、これだわ！」
魔女が人を魅了するようにステージの上をまるで自分の世界のように操る、素敵なアイドル。未来の有望職業。まさにこれだ！
＊＊＊
早速アイドルに関する情報収集に徹した。アイドルになるにはどうすればいいのか。どんな能力が必要なのか。
ダンス？すごく得意よ！ただダンスの実力が必要な職業じゃなかったから自慢する機会がなかっただけ。歌？はぁ、これは本当に言葉では表現できないレベルなんだけど…これもまた魔女には必要な能力じゃなかったから自慢する機会がなかっただけ。それに最近のアイドルは、バラエティー番組もこなさないといけないでしょ？バラエティー番組で目立つためには？静かな状態になってはダメ。それこそ私の最大の特技よ！
通りすがりの人を魅了するほど美しい魔女の外見、モチモチの肌のおかげで年齢不詳の神秘的な私の外見なら…
「できそう」
今度こそ天職を見つけた。確信ができた。やるべきことは一つだけ。
「次元の門。そこに行かないと。」
＊＊＊
魔女事務所の中央庭園。そこには、いつも青く輝く次元の門が存在する。選ばれた、もしくは選ばれる可能性のある人だけが通れる次元の門。
既に魔女から除名された以上、事務所には簡単には入れてくれないだろうけど。私にはこれがある。長い間、使うことはなかったが、ホコリ一つないよう磨いておいた大切なホウキ。空中から素早く入り込んで、一気に門まで行くのだ。
計画通り一瞬で空中に浮かび、バランスを取った瞬間、声が聞こえ始めた。私に会うことだけを待っているという声が、頭の中に直接響いた。本能的に門の奥から聞こえてくる音だということが分かった。私の話を聞きたいと、声は言っていた。やっぱり、そこに私の新しい道があるのよね？
「耳から血が出る覚悟をしたほうがいいぞ！」
いいわ。ジャルのホウキ乗り。本当にこれが最後の舞台だという思いで、空をかき分けた。
～ 除名された魔女の物語 ～
「こうなった以上、
もっと未来の明るい市場に行くわ！」
「ねえ、聞いて。私の名前がジャルなのに、
魔女になれないってありえる？」
カクテル2杯目。アルコールが入ったせいか普段よりも口数が増えている感じはするが、今それは重要ではない。私は今とても怒っているから！
「いや、私の口数が多いのは
今に始まったことじゃないし、
それは罪でもない。それなのに
急に除名だなんて。どういうこと？」
これも３回くらい言ったと思うけど？でも、気にせず、悔しい気持ちを全部吐き出すことにした。だから、今日はお酒も高い物を注文したの。
「本当に…悔しくて悲しい。
私ほどホウキに上手に乗れる人はいないわ。
魔女が天職なのよ。」
そう、魔女が天職！ホウキマスター！
1592年から今までホウキに乗らせたら右に出る者はいない天才魔女！
ジャルという名前だって、ホウキ（ピッジャル）に由来しているからホウキの実力は誰も疑わない。幼い頃は、名前にふさわしい魔女だとよく褒められたのに…
「でも天職ではないかも。それは私に
才能がないからではなくて…
世の中が私を分かってくれないということよ…」
憂鬱さが一気に押し寄せ、そのままバーに伏せてしまった。バーテンダーが、サービスとして新しいカクテルを差し出した。この店は、よく気遣ってくれる。おしゃべりをしても文句を言うこともない。だから常連になったの…鮮やかな色どりのお酒がたっぷり入ったグラスにささっているストローの端を少しかじり、そのままお酒を飲んだ。
これからどうやって生きていこう？未来が真っ暗だ。
＊＊＊
私はジャル。431歳。
長い間、魔女として生きてきたけど、これからは魔女ではなく、新しい職業を探さないといけない。
まず、私が長いこと魔女として活動できた理由は、私の卓越したホウキの実力のおかげだった。
しかし、昨年初めてホウキ大会で下位グループに入り脱落してしまった。確かに魔女市場も低迷しており、未来が見えない職業リストに数年間名を連ねているから、むしろよかった。
しかし、いくらそうだとしても、こんな取るに足らない理由で、一瞬にして能力のある魔女を追い払うなんて。もういいわ。私はもっと未来の明るい市場に行く！
そうして、求人情報をやみくもに調べてみたが、適当な職業は見当たらなかった。
しかも、天職だと思っていた職業で切られたという事実がしきりにちらつき、全く集中できない。
名前、ジャル。職業、魔女。特技、ホウキ乗り。その他のスペックは…。魔女業界にかなり長くいたが、実は目立った実績があるほうではなかった。履歴書を書く上で、その事実をより実感した。
しかし、誓って能力不足のせいではない！市場の流れに乗り損ねただけだ。魔女にとって最も重要な能力がホウキ乗りだった時代は随分と前に過ぎ去った。技術の発展により、ホウキよりも効率のいい交通手段がたくさんできた。ホウキ乗りは、伝統を守るための一種のショーのようなものだ。
恐らくそれで嫌がられたんだろう。成果もなくおしゃべりの多い魔女だと思われて。これは私の魅力の一つだと思ったのに。そう思う人が誰もいなかった。また憂鬱な考えが頭の中を支配し始めた。ダメダメ。振り落とさないと。
テレビをつけると、何かにぎやかなものを見れば複雑な頭の中も整理ができる。少しだけ休憩して、また仕事を探せばいい。何も考えずに、チャンネルを変えていた時、美しい歌声が耳と目を惹きつけた。
「そうよ、これだわ！」
魔女が人を魅了するようにステージの上をまるで自分の世界のように操る、素敵なアイドル。未来の有望職業。まさにこれだ！
＊＊＊
早速アイドルに関する情報収集に徹した。アイドルになるにはどうすればいいのか。どんな能力が必要なのか。
ダンス？すごく得意よ！ただダンスの実力が必要な職業じゃなかったから自慢する機会がなかっただけ。歌？はぁ、これは本当に言葉では表現できないレベルなんだけど…これもまた魔女には必要な能力じゃなかったから自慢する機会がなかっただけ。それに最近のアイドルは、バラエティー番組もこなさないといけないでしょ？バラエティー番組で目立つためには？静かな状態になってはダメ。それこそ私の最大の特技よ！
通りすがりの人を魅了するほど美しい魔女の外見、モチモチの肌のおかげで年齢不詳の神秘的な私の外見なら…
「できそう」
今度こそ天職を見つけた。確信ができた。やるべきことは一つだけ。
「次元の門。そこに行かないと。」
＊＊＊
魔女事務所の中央庭園。そこには、いつも青く輝く次元の門が存在する。選ばれた、もしくは選ばれる可能性のある人だけが通れる次元の門。
既に魔女から除名された以上、事務所には簡単には入れてくれないだろうけど。私にはこれがある。長い間、使うことはなかったが、ホコリ一つないよう磨いておいた大切なホウキ。空中から素早く入り込んで、一気に門まで行くのだ。
計画通り一瞬で空中に浮かび、バランスを取った瞬間、声が聞こえ始めた。私に会うことだけを待っているという声が、頭の中に直接響いた。本能的に門の奥から聞こえてくる音だということが分かった。私の話を聞きたいと、声は言っていた。やっぱり、そこに私の新しい道があるのよね？
「耳から血が出る覚悟をしたほうがいいぞ！」
いいわ。ジャルのホウキ乗り。本当にこれが最後の舞台だという思いで、空をかき分けた。
