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ひきこもりジプスニ

~ おうち大好き少女の物語 ~

「家の外で歌うって、どんな感じだろう?」

私の名前はひきこもり。
ひきこもりという名前のとおり、住んでいるのは自分の家だ。部屋にこもっているからといって、私の世界が部屋だけだと思ったら大間違いだ。世界の大きさは、胸に秘めた夢の大きさに比例する。部屋にこもって暮らしてはいるけれど、抱いている夢は広い夜空に負けないくらい大きい。

私の夢は、キラキラしたアイドルになることだ。だから毎日少しずつ、部屋の中で準備をしている。

朝起きて最初にするのは、布団の中でごろごろすること。急に冷たい空気に触れたら心臓がまひするかもしれないから。決して、なまけているのではない。
布団から出たら、シャワーを浴びる。これが一日で最初のボーカル練習の時間でもある。シャワーを手に持って熱唱する私は、おうちアイドルだ!
午後になる頃、鼻歌を歌いながらギターを持てば感性が湧き上がる。オリジナル曲を一つ作るくらい、私には朝飯前だ。
そうして、一日中歌って過ごすと、窓が紫色に染まる時間がやってくる。この時こそ真のひきこもりの時間だ。

「今日も忘れず、おうちアイドルひきこもりのライブを見に来てくれて、ありがとう!」

おうちアイドル・ひきこもりのライブが始まるのだ。
もちろん、観客はピンク色のウサギのぬいぐるみ、トソムだけ。でも、トソムがいてくれれば満席のお客さんがいるのも同然だ。トソムは私のファンで、いつも期待に満ちた目で見守っていてくれる。
今日も私はトソムのためにダンス、特技、オリジナル曲も完璧に披露した。トソムもいつものように目を輝かせていたけれど…。

「今、何時だと思ってるんだ! 静かにしろ、静かに!」

怒鳴り声が窓の向こうから聞こえて、耳を突き刺した。私は驚いて、布団の中に隠れた。

「夕方の5時半ですけど…」

少しびっくりしたけれど、それでも夢を諦めることはできない。ああ、思い切り歌うことができたら、どんなにいいだろう。

その時だった。
トントンと音がして、玄関のドアが青い光に変わった!家の外に一度も出たことがない私。そして、家の外から一度も誰かに呼ばれたことがない私。驚いて布団をぎゅっと握っていたら、誰かがまたドアをノックして、声をかけてきた。

『おうちアイドルのひきこもりさん。家にいるんでしょ?分かってるんですよ!』

その言葉に、私は目を丸くした。
一体誰なの? なぜ私がここにいると知っているの?

『ひきこもりさんに会いたくて、遠いところから来たんです』

私と同世代の少女の声。私は布団をかぶって、そろりそろりとドアの前に歩いていった。一度も開けたことのないドアの前に立った私は、恐る恐る質問した。

「ど、どなたですか?」
『おうちアイドル、ひきこもりさんでしょ?』
「はい…」
『私はひきこもりさんのファンです。あなたと一緒にステージの上で歌いたいんです』
「はい!?わ、私と?」

私の疑念が膨らむ前に、少女は慌てて説明した。

『私は別の世界から来ました。あなたの歌をいつも聴いていたんです。毎日、トソムの前でライブをしているひきこもりさんの声を』

心臓がドキドキした。こことは別の世界で、私の歌を聴いていた人がいたですって?観客はトソムだけだと思っていたのに…。

『ひきこもりさんの歌にいつも癒やされていました。あなたの歌は安らげる家のように温かい。落ち込んでいても、すぐに心がほっこりするわ!』

一度も聞いたことのない称賛に、私は胸がいっぱいになった。

『ひきこもりさん。この世界の人たちに、あなたの姿を見せたいとは思わない?』
「でも、私には家が大事なの…。家にいないと、歌う力が湧かない…」
『私が協力する!どこにいても私がひきこもりさんの“家”になってあげる!』

顔も分からない少女の言葉に、私は動揺した。

『みんな、あなたの歌を好きになるはず。断言できる!それに、あなたも外の世界を知りたいでしょ』

ベッドの上で毎日、思い描いていた外の世界。家の外で歌うって、どんな感じだろう?芝生の上で、大勢の人が集まっている広場で、照明の当たるステージの上で、歌うって、どんなものだろう?
そんな私の心の声も全て、この少女は聞いていたのだ。

私が欲しがっている言葉が何なのか、少女はよく分かっているようだった。私は少女の言葉を聞いて、今まで持ったことのない勇気が少しずつ心に満ちていくのを感じた。

かぶっていた布団を下ろすと、固く閉ざされていたドアが揺れ始めた。夜空には輝く星が見える。まるでステージの上でキラキラと輝くアイドルのようだ。

今この機会を逃したら、私はどうなるのだろう? 一生、家にこもって暮らすことだって、私にとっては幸せだ。

でも、私には「家になってあげる」と言ってくれる少女がいる。ならば、この家の外の、どこへだって行ける気がする。

『ひきこもりさん。私と一緒にアイドルにならない?』

彼女がもう一度、温かい声で言った。私は胸に布団をぎゅっと抱いて、恐る恐る青い星の群れの中に入っていった。

恐れと期待に満ちた今日は、私が生まれて初めて世界に踏み出した日だ。




~ おうち大好き少女の物語 ~

「家の外で歌うって、どんな感じだろう?」

私の名前はひきこもり。
ひきこもりという名前のとおり、住んでいるのは自分の家だ。部屋にこもっているからといって、私の世界が部屋だけだと思ったら大間違いだ。世界の大きさは、胸に秘めた夢の大きさに比例する。部屋にこもって暮らしてはいるけれど、抱いている夢は広い夜空に負けないくらい大きい。

私の夢は、キラキラしたアイドルになることだ。
だから毎日少しずつ、部屋の中で準備をしている。

朝起きて最初にするのは、布団の中でごろごろすること。急に冷たい空気に触れたら心臓がまひするかもしれないから。決して、なまけているのではない。
布団から出たら、シャワーを浴びる。これが一日で最初のボーカル練習の時間でもある。シャワーを手に持って熱唱する私は、おうちアイドルだ!
午後になる頃、鼻歌を歌いながらギターを持てば感性が湧き上がる。オリジナル曲を一つ作るくらい、私には朝飯前だ。
そうして、一日中歌って過ごすと、窓が紫色に染まる時間がやってくる。この時こそ真のひきこもりの時間だ。

「今日も忘れず、おうちアイドルひきこもりの
 ライブを見に来てくれて、ありがとう!」

おうちアイドル・ひきこもりのライブが始まるのだ。
もちろん、観客はピンク色のウサギのぬいぐるみ、トソムだけ。でも、トソムがいてくれれば満席のお客さんがいるのも同然だ。トソムは私のファンで、いつも期待に満ちた目で見守っていてくれる。
今日も私はトソムのためにダンス、特技、オリジナル曲も完璧に披露した。トソムもいつものように目を輝かせていたけれど…。

「今、何時だと思ってるんだ!
 静かにしろ、静かに!」

怒鳴り声が窓の向こうから聞こえて、耳を突き刺した。私は驚いて、布団の中に隠れた。

「夕方の5時半ですけど…」

少しびっくりしたけれど、それでも夢を諦めることはできない。ああ、思い切り歌うことができたら、どんなにいいだろう。

その時だった。
トントンと音がして、玄関のドアが青い光に変わった!家の外に一度も出たことがない私。そして、家の外から一度も誰かに呼ばれたことがない私。驚いて布団をぎゅっと握っていたら、誰かがまたドアをノックして、声をかけてきた。

『おうちアイドルのひきこもりさん。
 家にいるんでしょ?分かってるんですよ!』

その言葉に、私は目を丸くした。
一体誰なの? なぜ私がここにいると知っているの?

『ひきこもりさんに会いたくて、遠いところから
 来たんです』

私と同世代の少女の声。私は布団をかぶって、そろりそろりとドアの前に歩いていった。一度も開けたことのないドアの前に立った私は、恐る恐る質問した。

「ど、どなたですか?」
『おうちアイドル、ひきこもりさんでしょ?』
「はい…」
『私はひきこもりさんのファンです。
 あなたと一緒にステージの上で歌いたいんです』
「はい!?わ、私と?」

私の疑念が膨らむ前に、少女は慌てて説明した。

『私は別の世界から来ました。
 あなたの歌をいつも聴いていたんです。
 毎日、トソムの前でライブをしている
 ひきこもりさんの声を』

心臓がドキドキした。こことは別の世界で、私の歌を聴いていた人がいたですって?観客はトソムだけだと思っていたのに…。

『ひきこもりさんの歌にいつも癒やされて
 いました。あなたの歌は安らげる家のように
 温かい。落ち込んでいても、すぐに心が
 ほっこりするわ!』

一度も聞いたことのない称賛に、私は胸がいっぱいになった。

『ひきこもりさん。この世界の人たちに、
 あなたの姿を見せたいとは思わない?』
「でも、私には家が大事なの…。家にいないと、
 歌う力が湧かない…」
『私が協力する!
 どこにいても私がひきこもりさんの
 “家”になってあげる!』

顔も分からない少女の言葉に、私は動揺した。

『みんな、あなたの歌を好きになるはず。
 断言できる!それに、あなたも外の世界を
 知りたいでしょ』

ベッドの上で毎日、思い描いていた外の世界。家の外で歌うって、どんな感じだろう?芝生の上で、大勢の人が集まっている広場で、照明の当たるステージの上で、歌うって、どんなものだろう?
そんな私の心の声も全て、この少女は聞いていたのだ。

私が欲しがっている言葉が何なのか、少女はよく分かっているようだった。私は少女の言葉を聞いて、今まで持ったことのない勇気が少しずつ心に満ちていくのを感じた。

かぶっていた布団を下ろすと、固く閉ざされていたドアが揺れ始めた。夜空には輝く星が見える。まるでステージの上でキラキラと輝くアイドルのようだ。

今この機会を逃したら、私はどうなるのだろう? 一生、家にこもって暮らすことだって、私にとっては幸せだ。

でも、私には「家になってあげる」と言ってくれる少女がいる。ならば、この家の外の、どこへだって行ける気がする。

『ひきこもりさん。
 私と一緒にアイドルにならない?』

彼女がもう一度、温かい声で言った。私は胸に布団をぎゅっと抱いて、恐る恐る青い星の群れの中に入っていった。

恐れと期待に満ちた今日は、私が生まれて初めて世界に踏み出した日だ。