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ジュエル

~ 堕天使の物語 ~

「私は月に帰りたい。でもそのためには、
たくさんの愛をもらわなくてはいけないらしいんです」

流れ星さん、元気?

私は月を離れて、どこかは言えないけれど、ある世界に来ています。私が月から姿を消したという噂は…、もう聞いているでしょ?

実は、私は2年6カ月前に月を追われ、堕天使の身の上になりました。今は事情を話すことはできないけれど、むしろこれでよかったと思っています。月の外の世界も見られたし。でも、もう月に帰りたくなったんです。ここからははるか遠くに月を見ることができます。満月を見上げながら、一日も早く月に戻りたいと願っています。

でも、そのためには、たくさんの愛をもらわなくてはいけないらしいんです。そうすれば私は天使に戻って、月に帰ることができるそうなんです。だから、悩んだ末にアイドルになろうと決めました。アイドルって分かる?あなたも地球の近くを通ったことがあるなら知っているはず。誰よりも愛される存在なのです。もし私がアイドルになって誰よりも愛されたら、月に戻ることができるはずだと確信しています。

応援していてね。そして、近いうちに会いましょう。

またね。

P.S. 私に会いたくなったら、たまには顔を見せて。どこにいても、あなたを見つけるわ。

***

「ダイヤモンド、ルビー、サファイア、真珠、エメラルド、ジェット、パワー!」

ダメだ。もう1回―

「ダイヤモンド、ルビー、サファイア、真珠、エメラルド、ジンクス、パワー!」

これも違う。一体何だろう?

【ダ〇〇〇〇〇 ル〇〇 サ〇〇〇〇
   し〇〇〇 エ〇〇〇〇 ジ〇〇〇 パワー】
     ヒント:宝石箱

(これが何のキーだと言うんだろう…)

この世界の端っこに、アイドルになれるキーが刻まれていると聞いた。そのキーが、こんなに長くて難解なものだなんて。これを考えた人は、誰もアイドルになれないようにするつもりだったに違いない。

最後の単語【パワー】以外は全て頭文字しかないし、【宝石箱】というヒントもよく分からない。

ダイヤモンド、ルビー、サファイア、真珠、エメラルドは、これで正解だと思うけど…。

【ジ〇〇〇】とは何のことなのか。

「ダイヤモンド、ルビー、サファイア、真珠、エメラルド、ジ×$%、パワー!」

ひょっとしたらと思って、発音をぼかして言ってみたけれど…、ひゅーっと風が吹いただけで、すぐに空気が静まりかえった。
【ジンクス】【ジンジャー】【ジェット】? いくつかの単語を試してみても、何の反応もない。

(【ジュラ紀】かな?いや、それは違うか…)

頭をぶるぶると振った。

「あの!」

空に向かって大声を上げてみた。

「私はたくさんの愛をもらわないと月に帰れないんです。そして、そのためには絶対にアイドルに
   なる必要があるんです。誰でもいいから私を助けてくれませんか!」

(…)

「あの!助けてくれませんか?」

足元の石を拾って空に投げ、もっと大きな声を上げてみた。

(宝石箱は何を意味しているんだろう?)

頭を抱えていると、ひゅーっと風の音がした。振り返ってみると…。

『答えはあなたの中にある』

どこからかは分からないけれど、声が聞こえた。

背後から誰かにハグされたような感覚がして、驚いて声のしたほうに顔を向けると…、ひゅーっと風が吹き、青い光を放つ奇妙な形の謎の何かが、目の前で揺れていた。何かの形になろうとしているところみたいだ。

「えっ? あなたは誰?」
『答えは既に、あなたが持っている』
「答えを知っているんですか?答えは何なんですか?
   それさえ分かれば、私はアイドルになれるんです」
『あなたの中にある宝石』

揺れる青い光と同じように、聞こえる声も揺らいでいる気がした。

「私の中の宝石?」
『あなたの目の前にある宝石』

揺れていた謎の何かが、その瞬間、光りを放った。その中に答えがあるのかと思って、近づこうとしたら…。

「あっ!」

まぶしすぎて何も見えなかった。それでもこのチャンスを逃すまいと、何とか薄目を開けて見ようとしたら…、強烈な光を放ちながら揺らめいていた扉が、周りの暗闇を吸い込んで鏡のような物に変わった。

(鏡?いや、鏡は宝石じゃない。そもそも【か】だし…)

がっかりして背を向けようとすると、頭の中に「?」が浮かんだ。

(答えは私がもう持っている…。そして、鏡?…ということは、もしかして!)

息を整えて、低い声で唱えてみる。

「ダイヤモンド、ルビー、サファイア、真珠、エメラルド、ジュエル…」

…やっぱり、何も起こらない。

(そうよね、これじゃ簡単すぎる。やっぱり失敗かな?)

『パワー!』

見かねたのか、向かい側からアシストする声が聞こえた。キーの最後の単語だ。

(ありがとう)

どこからか強い風が吹いてきて、真っ直ぐに立っていることすらできなかった。

『最後の選択よ。あなたはこれから、人々に愛されながら歌って踊ることもできるけど、
   消滅してしまう危険もある。…性急に話をし過ぎ?』

(助けてくれたと思ったら怖がらせるようなことを言うあなたは何者なの?)

私はしばらく悩んだ末に、思い切って答えた。

「関係ないわ。月に帰れるなら」
『ダイヤモンド、ルビー、サファイア、真珠、エメラルド、ジュエル、パワー。
   この呪文を記憶しておくといいわ。何度も唱えないと、すぐに忘れてしまうよ』
「うん」
『そして、本当にアイドルを目指すのなら、自分がどんなに大切な人間なのかという
   ことを、しっかり記憶しておくことだ。
   激しい競争の中で、私たちはその重要な事実を忘れてしまいがちだから』
「はい。分かりました」
『あなたの声が気に入ったわ。飾らない感じがいいね、ジュエル』
「え?どうして私の名前を知っているの?」

音を立てて強い風が吹く。そして私は、揺らめく扉の中に吸い込まれていった。




~ 堕天使の物語 ~

「私は月に帰りたい。
でもそのためには、たくさんの愛を
もらわなくてはいけないらしいんです」

流れ星さん、元気?

私は月を離れて、どこかは言えないけれど、ある世界に来ています。私が月から姿を消したという噂は…、もう聞いているでしょ?

実は、私は2年6カ月前に月を追われ、堕天使の身の上になりました。今は事情を話すことはできないけれど、むしろこれでよかったと思っています。月の外の世界も見られたし。でも、もう月に帰りたくなったんです。ここからははるか遠くに月を見ることができます。満月を見上げながら、一日も早く月に戻りたいと願っています。

でも、そのためには、たくさんの愛をもらわなくてはいけないらしいんです。そうすれば私は天使に戻って、月に帰ることができるそうなんです。だから、悩んだ末にアイドルになろうと決めました。アイドルって分かる?あなたも地球の近くを通ったことがあるなら知っているはず。誰よりも愛される存在なのです。もし私がアイドルになって誰よりも愛されたら、月に戻ることができるはずだと確信しています。

応援していてね。そして、近いうちに会いましょう。

またね。

P.S. 私に会いたくなったら、たまには顔を見せて。どこにいても、あなたを見つけるわ。

***

「ダイヤモンド、ルビー、サファイア、真珠、
 エメラルド、ジェット、パワー!」

ダメだ。もう1回―

「ダイヤモンド、ルビー、サファイア、真珠、
 エメラルド、ジンクス、パワー!」

これも違う。一体何だろう?

【ダ〇〇〇〇〇 ル〇〇 サ〇〇〇〇
 し〇〇〇 エ〇〇〇〇 ジ〇〇〇 パワー】
   ヒント:宝石箱

(これが何のキーだと言うんだろう…)

この世界の端っこに、アイドルになれるキーが刻まれていると聞いた。そのキーが、こんなに長くて難解なものだなんて。これを考えた人は、誰もアイドルになれないようにするつもりだったに違いない。

最後の単語【パワー】以外は全て頭文字しかないし、【宝石箱】というヒントもよく分からない。

ダイヤモンド、ルビー、サファイア、真珠、エメラルドは、これで正解だと思うけど…。

【ジ〇〇〇】とは何のことなのか。

「ダイヤモンド、ルビー、サファイア、真珠、
 エメラルド、ジ×$%、パワー!」

ひょっとしたらと思って、発音をぼかして言ってみたけれど…、ひゅーっと風が吹いただけで、すぐに空気が静まりかえった。
【ジンクス】【ジンジャー】【ジェット】? いくつかの単語を試してみても、何の反応もない。

(【ジュラ紀】かな?いや、それは違うか…)

頭をぶるぶると振った。

「あの!」

空に向かって大声を上げてみた。

「私はたくさんの愛をもらわないと月に帰れ
 ないんです。そして、そのためには絶対に
 アイドルになる必要があるんです。
 誰でもいいから私を助けてくれませんか!」

(…)

「あの!助けてくれませんか?」

足元の石を拾って空に投げ、もっと大きな声を上げてみた。

(宝石箱は何を意味しているんだろう?)

頭を抱えていると、ひゅーっと風の音がした。振り返ってみると…。

『答えはあなたの中にある』

どこからかは分からないけれど、声が聞こえた。

背後から誰かにハグされたような感覚がして、驚いて声のしたほうに顔を向けると…、ひゅーっと風が吹き、青い光を放つ奇妙な形の謎の何かが、目の前で揺れていた。何かの形になろうとしているところみたいだ。

「えっ? あなたは誰?」
『答えは既に、あなたが持っている』
「答えを知っているんですか?答えは何なんですか?
 それさえ分かれば、私はアイドルになれるんです」
『あなたの中にある宝石』

揺れる青い光と同じように、聞こえる声も揺らいでいる気がした。

「私の中の宝石?」
『あなたの目の前にある宝石』

揺れていた謎の何かが、その瞬間、光りを放った。その中に答えがあるのかと思って、近づこうとしたら…。

「あっ!」

まぶしすぎて何も見えなかった。それでもこのチャンスを逃すまいと、何とか薄目を開けて見ようとしたら…、強烈な光を放ちながら揺らめいていた扉が、周りの暗闇を吸い込んで鏡のような物に変わった。

(鏡?いや、鏡は宝石じゃない。
 そもそも【か】だし…)

がっかりして背を向けようとすると、頭の中に「?」が浮かんだ。

(答えは私がもう持っている…。
 そして、鏡?…ということは、もしかして!)

息を整えて、低い声で唱えてみる。

「ダイヤモンド、ルビー、サファイア、真珠、
 エメラルド、ジュエル…」

…やっぱり、何も起こらない。

(そうよね、これじゃ簡単すぎる。
 やっぱり失敗かな?)

『パワー!』

見かねたのか、向かい側からアシストする声が聞こえた。キーの最後の単語だ。

(ありがとう)

どこからか強い風が吹いてきて、真っ直ぐに立っていることすらできなかった。

『最後の選択よ。
 あなたはこれから、人々に愛されながら歌って
 踊ることもできるけど、消滅してしまう危険も
 ある。…性急に話をし過ぎ?』

(助けてくれたと思ったら怖がらせるようなことを
 言うあなたは何者なの?)

私はしばらく悩んだ末に、思い切って答えた。

「関係ないわ。月に帰れるなら」
『ダイヤモンド、ルビー、サファイア、真珠、
 エメラルド、ジュエル、パワー。
 この呪文を記憶しておくといいわ。
 何度も唱えないと、すぐに忘れてしまうよ』
「うん」
『そして、本当にアイドルを目指すのなら、自分が
 どんなに大切な人間なのかということを、しっかり
 記憶しておくことだ。激しい競争の中で、私たちは
 その重要な事実を忘れてしまいがちだから』
「はい。分かりました」
『あなたの声が気に入ったわ。
 飾らない感じがいいね、ジュエル』
「え?どうして私の名前を知っているの?」

音を立てて強い風が吹く。そして私は、揺らめく扉の中に吸い込まれていった。