エニコール
~ 4度目の恋を夢見る物語 ~
「たくさんのバスが通り過ぎたけれど、私が乗るバスは一つもなかったわ。
そもそも、どこに行くべきなのかが分からないのに」
「うん? あ…、【愛の星】停留所?」
私は目をこすって、もう一度、停留所に書かれている文字を読んだ。
「ふふっ。やっぱりそうだ。また【愛の星】だ。酔っ払うといつもここに来ちゃうのね」
自分がどこへ行くべきなのかは分からないけれど、いつもどこかに行かなくてはと思っているから、停留所に足を運ぶのだろう。私は、手に持ったワインをぐいっと飲むと、にっこり笑顔を作った。
「過去3回の恋とは、もうバイ、バイ、バイしたのよ。私はどこに行けばいいの?」
そのまま停留所のベンチに腰を下ろした。
たくさんのバスが通り過ぎたけれど、私が乗るバスは一つもなかったわ。そもそも、どこに行くべきなのかが分からないのに。
本気の恋愛を3回経験したけど、一度も長続きしなかった。そのせいで、自分が目指すべき目的地もすっかり見失ってしまったみたいだ。甘いのに苦いワインが、喉をしっとりとぬらした。
「このワインと、ひっく!恋愛は!同じだわ。いい気分にさせてくれるけど、悲しませるのよね。
ひっく!ワインは、恋愛の味? 恋愛はワインの味!?」
だから私はワインも恋愛もやめられないのだろうな。飲んだあとは二日酔いで頭が痛くなるけれど、飲んでいる時はずっと笑顔でいられる。恋が終わったら心が痛むけれど、恋愛中はこの世の全てを手に入れたみたいに幸せなのと同じだ。私は恋をしていた頃のことを思い出して、携帯電話を取りだした。
「も、もしもし!?私よ、スクジャ」
電話の向こうからは何も返事がなかったけれど、私は言いたいことを言った。
「あの頃、私たち楽しかったよね?
あなたに毎晩、歌を歌ってあげてさ、あなたは私の歌が好きだったでしょ」
覚えているのは私だけなの? 相手は返事をしてくれなかった。
「ひどいわね。私は2人で過ごした時間を一度も忘れたことがないのに」
あの頃、幸せだったのは私だけじゃないよね? 私はあなたの笑顔を見るたびに、この世の全てを手に入れたみたいに幸せを感じたのに。胸を痛めていると、やっと電話の向こうから返事があった。
― スクジャ?スクジャじゃないと思うけど?
スクジャじゃない?そうだ。スクジャの恋は終わったのだった。
「えっと、私よ。イサベラ」
スクジャの恋が終わったあと、気持ちを新たに恋愛しようと、思い切って名前を変えたんだった。
「覚えてるでしょ!?イサベラよ。
私が踊るといつも、私しか見えないと言ってくれていたじゃない。ユー・リメンバー・ミー?」
イサベラ、イサベラで合ってるでしょ?
― うーん、イサベラ?イサベラでもないような気がする。
ええっ?スクジャでもイサベラでもないなら。
「じゃあ!ジユン?でしょ?
カエルの鳴きまねをしたらかわいいと言ってくれたじゃない。ゲコゲコ!」
それでも向こうの反応は変わらなかった。スクジャでもイサベラでもなく、直近の恋だったジユンでもない!?恋愛経験は3回しかないのに。一体、私は誰に電話したの?
『バカだな、本当に分らない?君に4度目の恋が訪れたんだ』
「4度目の恋」という言葉に、私は目を丸くした。3回の恋を見送った私に、新しい恋が訪れたですって?
新しい恋の訪れは私にとって、うれしくてたまらないものだった。もっと甘い恋になることを夢見て、名前まで変えるくらいだったのだから。でも、今回は喜ぶことができなかった。恋愛中は幸せだけど、その恋とお別れする時は、世界の終わりのように悲しいことを知っているから。
なのに、まだ心が癒えてもいないうちに4度目の恋が訪れた、ですって?
「4度目の恋はしないわ。怖いのよ」
私は怖かった。今回もまた、恋が去ってしまったら?
「またあなたを失ったら…、私は本当に行き場を失ってしまう」
きっとその時は、停留所に来る方法も忘れてしまうかもしれない。
「恋を失うたびに、どんなに苦しい思いをするか分かる?
帰る場所を失ったような気分になるの。目の前が真っ暗で、孤独だわ」
私は声を上げて泣いた。お酒に酔ってにこにこ笑っていた私が、初めて涙を流した瞬間だった。泣き止むまで待っていたのか、私が鼻をすするとようやく、電話の向こうから声が聞こえた。
『今まで君がどんなに孤独で悲しかったか知っている。
でも、君と同じくらい、私も君を恋しく思っていたんだよ』
私を恋しく思っていた?過去の恋愛を恋しがっていたのは私だけだと思っていたのに。
『知っているよ。恋愛している時の君は、誰にも比べられないほど美しいことを。だから、
ずっと恋愛していてほしいの。私も君がどんな姿であろうと最後まで愛するわ。約束する』
私が初めて「愛する」という言葉を聞いた瞬間だった。愛を与えることと同じくらい、愛をもらうことも温かくて幸せなことなのだ。やっぱり恋愛は痛いけれど甘い。
酔いが覚めたせいか、頭の中がはっきりしてきた。そこで初めて、おかしいぞと思った。
「ところで、あなたは誰なの?」
そう聞くと、仕方がないなあとでも言うように、電話の向こう側から笑い声が聞こえてきた。
『私?君の4度目の恋愛を待っている人だよ。どう?私と4度目の恋愛をしない?』
私がうなずくと、耳元の携帯電話がブルルと振動した。携帯電話から温かな青い光が漏れ出した。長く使っている携帯電話だけれど、こんなことは初めてだ。
『すてきな恋愛をしよう。君の名前は何?』
私はその声に笑みを浮かべた。4度目の恋愛をする、私の新しい名前を聞いてきたのだ。
「私の名前?名前は…、エニコールよ」
頭に浮かんだ名前を告げると、青い光が私を包み、携帯電話の中に引き入れた。
私はどこに行くのだろう? 愛の星ではないだろうけど、愛の星と同じくらい、温かくて甘い香りが漂うこの場所。きっと、ここで4度目の恋愛が始まるのだ。
~ 4度目の恋を夢見る物語 ~
「たくさんのバスが通り過ぎたけれど、
私が乗るバスは一つもなかったわ。
そもそも、どこに行くべきなのかが
分からないのに」
「うん? あ…、【愛の星】停留所?」
私は目をこすって、もう一度、停留所に書かれている文字を読んだ。
「ふふっ。やっぱりそうだ。また【愛の星】だ。
酔っ払うといつもここに来ちゃうのね」
自分がどこへ行くべきなのかは分からないけれど、いつもどこかに行かなくてはと思っているから、停留所に足を運ぶのだろう。私は、手に持ったワインをぐいっと飲むと、にっこり笑顔を作った。
「過去3回の恋とは、もうバイ、バイ、
バイしたのよ。私はどこに行けばいいの?」
そのまま停留所のベンチに腰を下ろした。
たくさんのバスが通り過ぎたけれど、私が乗るバスは一つもなかったわ。そもそも、どこに行くべきなのかが分からないのに。
本気の恋愛を3回経験したけど、一度も長続きしなかった。そのせいで、自分が目指すべき目的地もすっかり見失ってしまったみたいだ。甘いのに苦いワインが、喉をしっとりとぬらした。
「このワインと、ひっく!恋愛は!同じだわ。
いい気分にさせてくれるけど、悲しませるのよね。
ひっく!ワインは、恋愛の味?
恋愛はワインの味!?」
だから私はワインも恋愛もやめられないのだろうな。飲んだあとは二日酔いで頭が痛くなるけれど、飲んでいる時はずっと笑顔でいられる。恋が終わったら心が痛むけれど、恋愛中はこの世の全てを手に入れたみたいに幸せなのと同じだ。私は恋をしていた頃のことを思い出して、携帯電話を取りだした。
「も、もしもし!?私よ、スクジャ」
電話の向こうからは何も返事がなかったけれど、私は言いたいことを言った。
「あの頃、私たち楽しかったよね?
あなたに毎晩、歌を歌ってあげてさ、
あなたは私の歌が好きだったでしょ」
覚えているのは私だけなの? 相手は返事をしてくれなかった。
「ひどいわね。私は2人で過ごした時間を一度も
忘れたことがないのに」
あの頃、幸せだったのは私だけじゃないよね? 私はあなたの笑顔を見るたびに、この世の全てを手に入れたみたいに幸せを感じたのに。胸を痛めていると、やっと電話の向こうから返事があった。
― スクジャ?スクジャじゃないと思うけど?
スクジャじゃない?そうだ。スクジャの恋は終わったのだった。
「えっと、私よ。イサベラ」
スクジャの恋が終わったあと、気持ちを新たに恋愛しようと、思い切って名前を変えたんだった。
「覚えてるでしょ!?イサベラよ。
私が踊るといつも、私しか見えないと言って
くれていたじゃない。ユー・リメンバー・ミー?」
イサベラ、イサベラで合ってるでしょ?
― うーん、イサベラ?
イサベラでもないような気がする。
ええっ?スクジャでもイサベラでもないなら。
「じゃあ!ジユン?でしょ?
カエルの鳴きまねをしたらかわいいと言って
くれたじゃない。ゲコゲコ!」
それでも向こうの反応は変わらなかった。スクジャでもイサベラでもなく、直近の恋だったジユンでもない!?恋愛経験は3回しかないのに。一体、私は誰に電話したの?
『バカだな、本当に分らない?
君に4度目の恋が訪れたんだ』
「4度目の恋」という言葉に、私は目を丸くした。3回の恋を見送った私に、新しい恋が訪れたですって?
新しい恋の訪れは私にとって、うれしくてたまらないものだった。もっと甘い恋になることを夢見て、名前まで変えるくらいだったのだから。でも、今回は喜ぶことができなかった。恋愛中は幸せだけど、その恋とお別れする時は、世界の終わりのように悲しいことを知っているから。
なのに、まだ心が癒えてもいないうちに4度目の恋が訪れた、ですって?
「4度目の恋はしないわ。怖いのよ」
私は怖かった。
今回もまた、恋が去ってしまったら?
「またあなたを失ったら…、私は本当に行き場を
失ってしまう」
きっとその時は、停留所に来る方法も忘れてしまうかもしれない。
「恋を失うたびに、どんなに苦しい思いをするか
分かる?帰る場所を失ったような気分になるの。
目の前が真っ暗で、孤独だわ」
私は声を上げて泣いた。お酒に酔ってにこにこ笑っていた私が、初めて涙を流した瞬間だった。泣き止むまで待っていたのか、私が鼻をすするとようやく、電話の向こうから声が聞こえた。
『今まで君がどんなに孤独で悲しかったか知って
いる。でも、君と同じくらい、私も君を恋しく
思っていたんだよ』
私を恋しく思っていた?過去の恋愛を恋しがっていたのは私だけだと思っていたのに。
『知っているよ。恋愛している時の君は、誰にも
比べられないほど美しいことを。だから、ずっと
恋愛していてほしいの。
私も君がどんな姿であろうと最後まで愛するわ。
約束する』
私が初めて「愛する」という言葉を聞いた瞬間だった。愛を与えることと同じくらい、愛をもらうことも温かくて幸せなことなのだ。やっぱり恋愛は痛いけれど甘い。
酔いが覚めたせいか、頭の中がはっきりしてきた。そこで初めて、おかしいぞと思った。
「ところで、あなたは誰なの?」
そう聞くと、仕方がないなあとでも言うように、電話の向こう側から笑い声が聞こえてきた。
『私?君の4度目の恋愛を待っている人だよ。
どう?私と4度目の恋愛をしない?』
私がうなずくと、耳元の携帯電話がブルルと振動した。携帯電話から温かな青い光が漏れ出した。長く使っている携帯電話だけれど、こんなことは初めてだ。
『すてきな恋愛をしよう。君の名前は何?』
私はその声に笑みを浮かべた。4度目の恋愛をする、私の新しい名前を聞いてきたのだ。
「私の名前?名前は…、エニコールよ」
頭に浮かんだ名前を告げると、青い光が私を包み、携帯電話の中に引き入れた。
私はどこに行くのだろう? 愛の星ではないだろうけど、愛の星と同じくらい、温かくて甘い香りが漂うこの場所。きっと、ここで4度目の恋愛が始まるのだ。