ラスカル
~ 放送部長の話 ~
「ふと、誰か私の悩みも聞いてくれたらいいなと思った」
レディー・キュー!
放送中を知らせるON AIRボタンが点灯した。さあ、今日も張り切ってお昼の放送を始めますか。
「こんにちは!ウォーリードールが聞いてあげる、DJのラスカルです!」
音響よし、喉の調子よし、元気よし。
私はBGMが段々小さくなっていくのを待ち、ブース外からの合図に合わせて、便りを読んだ。
「にんじんさんからのお便りです。好きな先輩ができました。でも、本当に無愛想な私は、
どうすれば?」
初恋の初々しさやドキドキ、こういう可愛い悩みを紹介する時は、こっちまでドキドキしてしまう。
「ラスカルのお悩み解決!そんな時はこの歌を歌いましょう」
思いっきり鼻声にして、「先輩~」で始まる、舌を半分に折って歌う有名な愛嬌ソングを熱唱した。そもそも愛嬌ゼロの人には、この曲は解決策にならないって?
フッ、事実、愛嬌がないことは、まったくもって問題ではないわ。大事なのは好きな人のために自分の壁を超えられる勇気があるか、ね。お悩みの主は、この深い意味に気づいてくれたかな?勇気を出して先輩との恋が実りますようにとの思いを込めて、締めくくった。
進め!にんじん!
***
キンコンカンコンー
下校を知らせるチャイムが鳴ると同時にカバンを持ち、オンエアルームに向かった。
「今週は、お悩み相談がたくさん届いているようだね」
頭の中で台本の構成を練りながら、急ぎ足で歩いた。忙しい、忙しい。
ギクリ!
その時、とにかく音に敏感な耳が、私のあとをつけている足音をキャッチした。
「そこ、誰!」
ガランとした廊下で叫んでいた。しばしの静寂が流れた後、階段の踊り場から、少女がいきなり私に向かって走ってきた。
一目散に走ってきた少女は、投げ捨てるようにメモを渡し、コクリと頭を下げて風のように去っていった。
「このメモは?」
まさか告白の手紙?
DJラスカル!
今日から先輩と付き合うことになったよ。
これも全部、ラスカルのおかげ。
オンエアを聞いた先輩が私に会いに来て、俺のことかって聞くから…。ありったけの勇気をふりしぼって例の歌を歌ったんだけど…。先輩は笑顔で(キュン)、愛嬌なら俺のほうがあるから心配するなだって…。
私の悩みを解決してくれて本当に、本当にありがとう。
にんじんより
告白の手紙ではなく、私のわびしい心に塩を塗る手紙だったのか。頑張って勇気を出したなんて立派だよ、にんじん!
私はニマニマと笑っていた。メモをきれいに折りたたんでカバンの中に大切にしまった。今日もお悩み解決完了!
***
オンエアルームで夢中になってお便りを選んでいると、いつの間にか日が暮れようとしていた。
「もうこんな時間?曲だけ見つけておいて、帰ろう」
楽曲サイトを開き、画面をスクロールさせながら、しばらくの間、ぴったりきそうな曲を探した。
「つい何日か前、ここでにんじんさんへの曲を探していたのに」
今頃は浮足立っているのかな?軽い足取りで、走り去った後ろ姿が目に浮かぶ。
ふと、誰か私の悩みも聞いてくれたら、嬉しいなと思った。いつかはラジオだけでなく、私の歌でみんなの悩みを解決してあげたいという夢。自分にも自分の歌を歌うチャンスがあったらという願い、だ。公開放送でやってみたら、誰かが解決してくれたりして?
そんなくだらないことを考えながら、曲の再生ボタンを押した時だった。
ジジーッ、ジジジーッ。
再生ボタンを押した途端、オンエアルームのスピーカーから一斉にジーッという音が鳴った。
「な、何?急に故障でもした?」
慌てて機器を点検する。
『こんにちは、ラスカルのウォーリードールです!』
「本当に、何なの?」
声がしたほうに顔を向けると、オンエアルームの真ん中に青い光の空間が出来ていた。これ…教科書で見たことがある。ある場所では、ブラックホールで人が往来することもできるって言ってたけど…、だったらこれはブルーホール?
『あなたの悩みを言ってみなさい、ラスカル!
私はあなただけのウォーリードールだよ!』
ブラックホールに近づくと、声は一層鮮明になって聞こえてきた。
その声がどこから、なぜ現れたのか分からないけど、私だけのウォーリードールだという言葉に、思わず素直に悩みを打ち明けてしまった。
「私…アイドルになりたい」
『どうしてアイドルになりたいの?』
「私の歌で、みんなを癒やしたいから」
声はしばらく沈黙したのち、もう一度聞いた。
『諦めない自信はある?何度挫折しようとも失敗しようとも…?』
「もちろん!諦めなければ失敗はない、すべては過程だ!という言葉を知らないの?」
声は何か考えたあと、ククッと笑った。
『私たち似ているね。君のために一曲歌ってあげる』
幾多の未知なる道で
かすかな光を追いかける
いつまでも一緒だよ
また巡り逢えた世界 ※
伝えたいメッセージが何なのか、すぐに分かった。
「今はかすかな光に見えても…」
『未来の君は、きっと輝く星。決して諦めないなら』
少女が私の言葉のあとに続けた。
「…ありがとう、応援してくれて」
『さあ、おいで。一緒にいこう。アイドルになるために』
不思議な声の持ち主は確信を持って、言った。まるで私を連れ出すために、長い時間待っていたかのよう…。
私はややこしく考えないことにした。今度こそ、私の悩みを解決しに行く。
私は迷うことなく、青い光の空間の中へ飛び込んだ。
※少女時代『Into the new world』の一部
~ 放送部長の話 ~
「ふと、誰か私の悩みも聞いてくれたら
いいなと思った」
レディー・キュー!
放送中を知らせるON AIRボタンが点灯した。さあ、今日も張り切ってお昼の放送を始めますか。
「こんにちは!ウォーリードールが聞いてあげる、
DJのラスカルです!」
音響よし、喉の調子よし、元気よし。
私はBGMが段々小さくなっていくのを待ち、ブース外からの合図に合わせて、便りを読んだ。
「にんじんさんからのお便りです。
好きな先輩ができました。
でも、本当に無愛想な私は、どうすれば?」
初恋の初々しさやドキドキ、こういう可愛い悩みを紹介する時は、こっちまでドキドキしてしまう。
「ラスカルのお悩み解決!
そんな時はこの歌を歌いましょう」
思いっきり鼻声にして、「先輩~」で始まる、舌を半分に折って歌う有名な愛嬌ソングを熱唱した。そもそも愛嬌ゼロの人には、この曲は解決策にならないって?
フッ、事実、愛嬌がないことは、まったくもって問題ではないわ。大事なのは好きな人のために自分の壁を超えられる勇気があるか、ね。お悩みの主は、この深い意味に気づいてくれたかな?勇気を出して先輩との恋が実りますようにとの思いを込めて、締めくくった。
進め!にんじん!
***
キンコンカンコンー
下校を知らせるチャイムが鳴ると同時にカバンを持ち、オンエアルームに向かった。
「今週は、お悩み相談が
たくさん届いているようだね」
頭の中で台本の構成を練りながら、急ぎ足で歩いた。忙しい、忙しい。
ギクリ!
その時、とにかく音に敏感な耳が、私のあとをつけている足音をキャッチした。
「そこ、誰!」
ガランとした廊下で叫んでいた。しばしの静寂が流れた後、階段の踊り場から、少女がいきなり私に向かって走ってきた。
一目散に走ってきた少女は、投げ捨てるようにメモを渡し、コクリと頭を下げて風のように去っていった。
「このメモは?」
まさか告白の手紙?
DJラスカル!
今日から先輩と付き合うことになったよ。
これも全部、ラスカルのおかげ。
オンエアを聞いた先輩が私に会いに来て、俺のことかって聞くから…。ありったけの勇気をふりしぼって例の歌を歌ったんだけど…。先輩は笑顔で(キュン)、愛嬌なら俺のほうがあるから心配するなだって…。
私の悩みを解決してくれて
本当に、本当にありがとう。
にんじんより
告白の手紙ではなく、私のわびしい心に塩を塗る手紙だったのか。頑張って勇気を出したなんて立派だよ、にんじん!
私はニマニマと笑っていた。メモをきれいに折りたたんでカバンの中に大切にしまった。今日もお悩み解決完了!
***
オンエアルームで夢中になってお便りを選んでいると、いつの間にか日が暮れようとしていた。
「もうこんな時間?
曲だけ見つけておいて、帰ろう」
楽曲サイトを開き、画面をスクロールさせながら、しばらくの間、ぴったりきそうな曲を探した。
「つい何日か前、ここでにんじんさんへの曲を
探していたのに」
今頃は浮足立っているのかな?軽い足取りで、走り去った後ろ姿が目に浮かぶ。
ふと、誰か私の悩みも聞いてくれたら、嬉しいなと思った。いつかはラジオだけでなく、私の歌でみんなの悩みを解決してあげたいという夢。自分にも自分の歌を歌うチャンスがあったらという願い、だ。公開放送でやってみたら、誰かが解決してくれたりして?
そんなくだらないことを考えながら、曲の再生ボタンを押した時だった。
ジジーッ、ジジジーッ。
再生ボタンを押した途端、オンエアルームのスピーカーから一斉にジーッという音が鳴った。
「な、何?急に故障でもした?」
慌てて機器を点検する。
『こんにちは、
ラスカルのウォーリードールです!』
「本当に、何なの?」
声がしたほうに顔を向けると、オンエアルームの真ん中に青い光の空間が出来ていた。これ…教科書で見たことがある。ある場所では、ブラックホールで人が往来することもできるって言ってたけど…、だったらこれはブルーホール?
『あなたの悩みを言ってみなさい、ラスカル!
私はあなただけのウォーリードールだよ!』
ブラックホールに近づくと、声は一層鮮明になって聞こえてきた。
その声がどこから、なぜ現れたのか分からないけど、私だけのウォーリードールだという言葉に、思わず素直に悩みを打ち明けてしまった。
「私…アイドルになりたい」
『どうしてアイドルになりたいの?』
「私の歌で、みんなを癒やしたいから」
声はしばらく沈黙したのち、もう一度聞いた。
『諦めない自信はある?
何度挫折しようとも失敗しようとも…?』
「もちろん!諦めなければ失敗はない、すべては
過程だ!という言葉を知らないの?」
声は何か考えたあと、ククッと笑った。
『私たち似ているね。
君のために一曲歌ってあげる』
幾多の未知なる道で
かすかな光を追いかける
いつまでも一緒だよ
また巡り逢えた世界 ※
伝えたいメッセージが何なのか、すぐに分かった。
「今はかすかな光に見えても…」
『未来の君は、きっと輝く星。
決して諦めないなら』
少女が私の言葉のあとに続けた。
「…ありがとう、応援してくれて」
『さあ、おいで。
一緒にいこう。アイドルになるために』
不思議な声の持ち主は確信を持って、言った。まるで私を連れ出すために、長い時間待っていたかのよう…。
私はややこしく考えないことにした。今度こそ、私の悩みを解決しに行く。
私は迷うことなく、青い光の空間の中へ飛び込んだ。
※少女時代『Into the new world』の一部