ぷわにゃん
~ 気だるい猫の話 ~
「どうしても私もやらなきゃダメ?」
「昔から猫というものは、高飛車ながら愛嬌がなくてはならんのだ」
子猫の頃から耳にタコができるくらい聞かされた言葉。この話を聞かされる度に、げんなりした顔になってしまう。
「我々は金持ちな家の猫。つまり、それに見合う態度というものが必要だ。」
誰もが隊長ねこの話を真剣に聞いているように見えるが、目をよく見ると心ここにあらずだ。
「理論的な話はここまでにして、次は実践しよう。
さあ、〈可愛いにゃんこの練習問題〉問2の1番を今日は…」
はあ。どうか今日は当てられませんように…。
「そこのぷわにゃん、やってみなさい」
隊長ねこが私を指名し、他の猫までもがこっちを見た。
のろのろと体を起こし、しばし考え込んだ。
「どうしても私もやらなきゃダメですか?」
周りがざわつき始めた。隊長ねこも困惑したように目をまん丸くした。
「キミ、一体何を言っているんだね」
「いや…ここにいる猫は誰もがみんな可愛いし美人だし、愛嬌もあります。だから、わざわざ
それを私にまで…正直私のイメージとか性格に合わないんです」
依然ざわついている猫たちをぐるりと見回した。どの猫も、まあるい瞳に可愛い顔をしていて、飼い主がひとつひとつ心を込めてつけたリボンが本当によく似合っている。だけど、私は?
首に巻かれたリボンを前足でひっかき落とした。
ピンクの水玉リボン。私にはまったく似合わないし、好みでもないの!
「キミ!ちゃんとつけなさい!最近の流行は、犬のように人懐こい猫だぞ?知らないのか?
そこに家の雰囲気に合わせて、高飛車な雰囲気を加えてだな…」
「何それ。本当にいや!私が愛嬌を振りまいたところでヘンなだけよ。私は力も強いし、
運動神経もいい猫なの。私は、ただ私らしく生きたいの」
「まったく、勝手にしろ、勝手に!」
隊長ねこは、いら立って胸を叩き、ぷいと背中を向けた。私は無意識のうちに口を三角に尖らせていた。
それでも私は自分の言ったことが間違っているとは思わない。きっと他にも私と同じことを考えている猫がいるはず。愛嬌も、高飛車なふりも本当はいやなのに、しかたなく合わせている子が。
しれっと他の猫たちのほうに視線を向けた。首を横に振っていたり、私をヘンな目で見る猫たちの間で、まるで私を応援するかのように、誰かのしっぽが心地よく揺れていた。
***
猫の群れからしばし離れ、こっそり書斎に入る。誰も来ないこの書斎は、静かに考え事ができるので、私が最も好きな場所だ。
金持ちな家の猫の人生は自由に見えて、実際はそうとも限らない。この猫の世界にもトレンドというものがあるからだ。
最近の流行は、犬のように人懐こい猫。いくら猫と言えど、愛嬌のない猫は人気者になれない。
「だけど…ありのままの自分を好きになってはくれないの?
私は、好きなことを通して、自分自身を見せたい」
誰かに聞いてほしいと願いつつ、つぶやいた。その瞬間、机の上の明かりが2回点滅した。
何だろう…まるで誰かが私の話を聞いていたかのような…?
***
私の名前は、ぷわにゃん。太った猫の意味でつけられた名前だ。
ここでの私は、無気力でダラダラした姿しか見せないと、いつも言われている。
「だけど、私はただ余裕というものが好きなだけなのに」
いつも屈することなく自分の考えを貫き通してはいるが…、やっぱりここは私が好きなことを思う存分やるには、息が詰まるかも?ニャーと鳴いてみろだの、愛嬌を振りまけだの、要求が多すぎて煩わしいのよ。面倒なことから逃げ、窓際で外の風景を眺めていたら、怠け者と誤解されるのが関の山。
「私も自分が好きなことなら頑張れるけど。好きな場所で好きなことを思い切り
やって暮らしたい」
例えば…、とってもモダンに飾った静かな書斎で好きな歌を歌うこと。もしくは、ありのままの私を好きな人たちの前で特技を披露するの。ダンスと歌。そして、私の本当の姿を!
あれやこれやと考えて寝そうになった時、突然、強烈な光に起こされた。
目を開けると、いつの間にか長い手足と憧れの声を持つ少女に生まれ変わっていた。この姿なら、願いを叶えられるかもしれない。
高揚したまま光が射すほうに顔を向けると、チカチカと点滅し壊れたと思っていたスタンドライトが青い光をちらつかせる空間になっていた。飼い主好みの、おしゃれで落ち着いた、この場所とはまるで違う、生まれて初めて見る空間。
不思議と恐怖心はなかった。向こうには私と似た誰かが、私を待っているような気が、なぜかしたから。
そして、その確信に応えるかのように空間の向こうから歌声が聴こえてきた。ゆっくり足を踏み出した。目の前に見える空間はまるで私が歌うために用意されたステージと照明にも見えた。
決めた。
「私はここで大好きな歌を歌う!」
周りが求める私ではなく、私が好きな歌が歌える世界。その新しい世界に向かって足を踏み出した。
~ 気だるい猫の話 ~
「どうしても私もやらなきゃダメ?」
「昔から猫というものは、高飛車ながら愛嬌が
なくてはならんのだ」
子猫の頃から耳にタコができるくらい聞かされた言葉。この話を聞かされる度に、げんなりした顔になってしまう。
「我々は金持ちな家の猫。つまり、それに見合う
態度というものが必要だ。」
誰もが隊長ねこの話を真剣に聞いているように見えるが、目をよく見ると心ここにあらずだ。
「理論的な話はここまでにして、次は実践しよう。
さあ、〈可愛いにゃんこの練習問題〉問2の1番を
今日は…」
はあ。どうか今日は当てられませんように…。
「そこのぷわにゃん、やってみなさい」
隊長ねこが私を指名し、他の猫までもがこっちを見た。のろのろと体を起こし、しばし考え込んだ。
「どうしても私もやらなきゃダメですか?」
周りがざわつき始めた。隊長ねこも困惑したように目をまん丸くした。
「キミ、一体何を言っているんだね」
「いや…ここにいる猫は誰もがみんな可愛いし美人
だし、愛嬌もあります。だから、わざわざそれを
私にまで…
正直私のイメージとか性格に合わないんです」
依然ざわついている猫たちをぐるりと見回した。どの猫も、まあるい瞳に可愛い顔をしていて、飼い主がひとつひとつ心を込めてつけたリボンが本当によく似合っている。だけど、私は?
首に巻かれたリボンを前足でひっかき落とした。
ピンクの水玉リボン。私にはまったく似合わないし、好みでもないの!
「キミ!ちゃんとつけなさい!
最近の流行は、犬のように人懐こい猫だぞ?
知らないのか?そこに家の雰囲気に合わせて、
高飛車な雰囲気を加えてだな…」
「何それ。本当にいや!
私が愛嬌を振りまいたところでヘンなだけよ。
私は力も強いし、運動神経もいい猫なの。私は、
ただ私らしく生きたいの」
「まったく、勝手にしろ、勝手に!」
隊長ねこは、いら立って胸を叩き、ぷいと背中を向けた。私は無意識のうちに口を三角に尖らせていた。
それでも私は自分の言ったことが間違っているとは思わない。きっと他にも私と同じことを考えている猫がいるはず。愛嬌も、高飛車なふりも本当はいやなのに、しかたなく合わせている子が。
しれっと他の猫たちのほうに視線を向けた。首を横に振っていたり、私をヘンな目で見る猫たちの間で、まるで私を応援するかのように、誰かのしっぽが心地よく揺れていた。
***
猫の群れからしばし離れ、こっそり書斎に入る。誰も来ないこの書斎は、静かに考え事ができるので、私が最も好きな場所だ。
金持ちな家の猫の人生は自由に見えて、実際はそうとも限らない。この猫の世界にもトレンドというものがあるからだ。
最近の流行は、犬のように人懐こい猫。いくら猫と言えど、愛嬌のない猫は人気者になれない。
「だけど…ありのままの自分を好きになっては
くれないの?私は、好きなことを通して、自分自身を
見せたい」
誰かに聞いてほしいと願いつつ、つぶやいた。その瞬間、机の上の明かりが2回点滅した。
何だろう…まるで誰かが私の話を聞いていたかのような…?
***
私の名前は、ぷわにゃん。
太った猫の意味でつけられた名前だ。
ここでの私は、無気力でダラダラした姿しか見せないと、いつも言われている。
「だけど、私はただ余裕というものが好きなだけ
なのに」
いつも屈することなく自分の考えを貫き通してはいるが…、やっぱりここは私が好きなことを思う存分やるには、息が詰まるかも?ニャーと鳴いてみろだの、愛嬌を振りまけだの、要求が多すぎて煩わしいのよ。面倒なことから逃げ、窓際で外の風景を眺めていたら、怠け者と誤解されるのが関の山。
「私も自分が好きなことなら頑張れるけど。好きな
場所で好きなことを思い切りやって暮らしたい」
例えば…、とってもモダンに飾った静かな書斎で好きな歌を歌うこと。もしくは、ありのままの私を好きな人たちの前で特技を披露するの。ダンスと歌。そして、私の本当の姿を!
あれやこれやと考えて寝そうになった時、突然、強烈な光に起こされた。
目を開けると、いつの間にか長い手足と憧れの声を持つ少女に生まれ変わっていた。この姿なら、願いを叶えられるかもしれない。
高揚したまま光が射すほうに顔を向けると、チカチカと点滅し壊れたと思っていたスタンドライトが青い光をちらつかせる空間になっていた。飼い主好みの、おしゃれで落ち着いた、この場所とはまるで違う、生まれて初めて見る空間。
不思議と恐怖心はなかった。向こうには私と似た誰かが、私を待っているような気が、なぜかしたから。
そして、その確信に応えるかのように空間の向こうから歌声が聴こえてきた。ゆっくり足を踏み出した。目の前に見える空間はまるで私が歌うために用意されたステージと照明にも見えた。
決めた。
「私はここで大好きな歌を歌う!」
周りが求める私ではなく、私が好きな歌が歌える世界。その新しい世界に向かって足を踏み出した。