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ももかドファ

~ マンガの中の少女の話 ~

「人はいつ死ぬと思う?」

またあの夢だわ。何百回見ても、いつも同じ場面で目が覚める。
冒険に出るための準備をすべて終え、出発しようとした瞬間…、いつもその次の場面に進むことなく夢から目覚めてしまう。

「よりによって肝心な場面で!」

冒険に出る【約束の日】を待ちわびている自分にとっては、うれしくはない夢だ。今日もそろそろ目が覚めるだろうと思った瞬間…
今度の夢は少し展開が違う。

「おっと…?」

いつもはおもりを巻き付けたように重かった足が、今日に限って軽い。いつも目覚めてしまう次の場面、まさに一歩足を踏み出した瞬間と同時に目が覚めた。
夢から覚め、高揚して荒くなった息を整える。徐々に部屋の中の様子が鮮明になり、ベッドから起きてマンガで埋め尽くされた本棚に向かって、走っていった。

そして、毎朝やっている自分だけの儀式に取りかかった。今日こそは違うという期待感を持って!
目を閉じ、厳かな気持ちでマンガを1冊取り出す。タロットカードを選ぶかのように、ランダムに選んだページを開き、今日の運命を確認するのだけれど…。

[さあ始めよう、私の夢を!]

マンガを開いた瞬間、頭の中に響いたメロディーと歌詞!
その瞬間気がついたわ。今日こそが【約束の日】だと!ついに、私は夢を叶えるために、長い旅を始めることになる。

急にこんな決心をするお前は何者だと思うのもムリはない。となれば答えるのが人の常。私の名は「ももか」。月刊コミック『少女ももか』から生まれた。そして長い間、私はアイドルになるための冒険に出ることを夢見てきた。

***

「いつかその日が来ることは分かっていたけど!」

私は、マンガから生まれ、この世にある冒険が描かれたすべてのマンガを網羅している。だから、夢を叶えるべく、仲間たちと共にする冒険がどれほど貴重かを知っている。そんな私が自ら冒険に旅立つのは、とうに定められた運命なの。
だけど、マンガではいとも簡単に旅立つ冒険、一体どう始めればいいのやら…
仲間はどうやって見つけ、何をきっかけに冒険に旅立つ決心をすればいいの?

マンガには世の中の真理が詰まっていると信じている私は、進んで【約束】をすることにした。毎朝起きてすぐマンガを開き、冒険スタートの場面が出たら、旅立つと!以来、自分だけの儀式として毎朝マンガを開き、一日を占った。
幾千もの朝を落胆で迎えたわ。だけど、次の朝もマンガを開くことをやめなかったし、ついに今日という日がやってきたの。

いち早く【約束】に応えたい一心で、荷物をまとめ始めた。冒険で一番大事なのは食料なので、まず魚のマンガを選んだ。そして、つらいことがある度に指針となってくれるマンガを選んだ。

「フフ、カバンが大きくないから慎重に選ばないと」

しばらく悩んだすえに、夢に対する意気込みについて考え、1冊を選んだ。

「[才能は開花させるもの、センスは磨くもの] そうだ、このマインドだ」

夢に向かって走っていると、到底前が見通せない真っ暗闇のような日もあるだろう。だけど私は、才能が花開く日を夢見て、絶えず磨き続けられる自信がある。なぜなら、待つことには慣れっこだから!誰よりもうまく耐えられるはず。

どんなつらい状況にも耐えてみせるという悲壮な覚悟に浸っていたその時だった。

『ももか!』

彼女の呼びかけが初めて私に届いた。

***

驚いて声がしたほうに顔を向けると、扉のほうが青く輝いていた。
初めて聞いた声のはずなのに…!

「どちら…様…?」
『キミ、私と仲間になろう!』
「…!」

この聞き慣れたセリフ…!声は、聞き慣れないものだったけど、私と同じ部類だと思い、怖さより嬉しい気持ちが勝った。

『キミ、冒険に旅立つんだって?まさか1人で?』
「なんでそれを知ってるの…?」

声の主は答える代わりに笑いながらこう言った。

『昔から、「冒険に出るならまず仲間を探せ」というでしょ!
   今日から私が仲間になってあげる』

ウソでしょ。こんな自然な展開だったなんて!

『キミが仲間と歌ったり踊ったりできるように私が来たわ。だけど、いいことばかり起こるとは
   限らないの。最悪の場合は…消滅することもある』

彼女は、夢をふくらませている私ががっかりするのではないかと、恐る恐る付け加えたが、私はこう彼女に聞いた。

人はいつ死ぬと思う…?
  心臓を銃で撃ち抜かれた時 …違う。
  不治の病に犯された時 …違う
  猛毒キノコのスープを飲んだ時 …違う!
  人に忘れられた時さ…!

  わたしには、もう怖いものはない!」

話を聞いていた彼女は豪快に笑い、こう言った。

『心の準備をしっかりしてきたのね!
   私もキミのように準備ができている。
   さあ、早く私に会いに来て』

私は最後に、これまでの自分の世界を見た。私が眠れない夜を迎える度に、子守唄を歌ってくれたフィギュアたち、特典グッズが入っている宝箱。
そして…私が【約束の日】を待つ間、力になってくれた、たくさんのマンガ。
すべてを目に焼きつけてから、背を向けた。向こうから、少女の声に他の声が重なって聞こえてくる。

「他に誰かいるの?」

新しい仲間かも知れないというワクワク感で心をくすぐられた。
会えたらどんな風に自己紹介をしようか…?

こうして大きい決断をしたあと、私は光り輝く扉の中へと足を踏み入れた。


※集英社『ONE PIECE』第16巻 第145話より




~ マンガの中の少女の話 ~

「人はいつ死ぬと思う?」

またあの夢だわ。何百回見ても、いつも同じ場面で目が覚める。
冒険に出るための準備をすべて終え、出発しようとした瞬間…、いつもその次の場面に進むことなく夢から目覚めてしまう。

「よりによって肝心な場面で!」

冒険に出る【約束の日】を待ちわびている自分にとっては、うれしくはない夢だ。今日もそろそろ目が覚めるだろうと思った瞬間…
今度の夢は少し展開が違う。

「おっと…?」

いつもはおもりを巻き付けたように重かった足が、今日に限って軽い。いつも目覚めてしまう次の場面、まさに一歩足を踏み出した瞬間と同時に目が覚めた。
夢から覚め、高揚して荒くなった息を整える。徐々に部屋の中の様子が鮮明になり、ベッドから起きてマンガで埋め尽くされた本棚に向かって、走っていった。

そして、毎朝やっている自分だけの儀式に取りかかった。今日こそは違うという期待感を持って!
目を閉じ、厳かな気持ちでマンガを1冊取り出す。タロットカードを選ぶかのように、ランダムに選んだページを開き、今日の運命を確認するのだけれど…。

[さあ始めよう、私の夢を!]

マンガを開いた瞬間、頭の中に響いたメロディーと歌詞!
その瞬間気がついたわ。今日こそが【約束の日】だと!ついに、私は夢を叶えるために、長い旅を始めることになる。

急にこんな決心をするお前は何者だと思うのもムリはない。となれば答えるのが人の常。私の名は「ももか」。月刊コミック『少女ももか』から生まれた。そして長い間、私はアイドルになるための冒険に出ることを夢見てきた。

***

「いつかその日が来ることは分かっていたけど!」

私は、マンガから生まれ、この世にある冒険が描かれたすべてのマンガを網羅している。だから、夢を叶えるべく、仲間たちと共にする冒険がどれほど貴重かを知っている。そんな私が自ら冒険に旅立つのは、とうに定められた運命なの。
だけど、マンガではいとも簡単に旅立つ冒険、一体どう始めればいいのやら…。
仲間はどうやって見つけ、何をきっかけに冒険に旅立つ決心をすればいいの?

マンガには世の中の真理が詰まっていると信じている私は、進んで【約束】をすることにした。毎朝起きてすぐマンガを開き、冒険スタートの場面が出たら、旅立つと!以来、自分だけの儀式として毎朝マンガを開き、一日を占った。
幾千もの朝を落胆で迎えたわ。だけど、次の朝もマンガを開くことをやめなかったし、ついに今日という日がやってきたの。

いち早く【約束】に応えたい一心で、荷物をまとめ始めた。冒険で一番大事なのは食料なので、まず魚のマンガを選んだ。そして、つらいことがある度に指針となってくれるマンガを選んだ。

「フフ、カバンが大きくないから
 慎重に選ばないと」

しばらく悩んだすえに、夢に対する意気込みについて考え、1冊を選んだ。

「[才能は開花させるもの、センスは磨くもの]
 そうだ、このマインドだ」

夢に向かって走っていると、到底前が見通せない真っ暗闇のような日もあるだろう。だけど私は、才能が花開く日を夢見て、絶えず磨き続けられる自信がある。なぜなら、待つことには慣れっこだから!誰よりもうまく耐えられるはず。

どんなつらい状況にも耐えてみせるという悲壮な覚悟に浸っていたその時だった。

『ももか!』

彼女の呼びかけが初めて私に届いた。

***

驚いて声がしたほうに顔を向けると、扉のほうが青く輝いていた。
初めて聞いた声のはずなのに…!

「どちら…様…?」
『キミ、私と仲間になろう!』
「…!」

この聞き慣れたセリフ…!声は、聞き慣れないものだったけど、私と同じ部類だと思い、怖さより嬉しい気持ちが勝った。

『キミ、冒険に旅立つんだって?まさか1人で?』
「なんでそれを知ってるの…?」

声の主は答える代わりに笑いながらこう言った。

『昔から、「冒険に出るならまず仲間を探せ」
 というでしょ!
 今日から私が仲間になってあげる』

ウソでしょ。こんな自然な展開だったなんて!

『キミが仲間と歌ったり踊ったりできるように
 私が来たわ。だけど、いいことばかり起こるとは
 限らないの。
 最悪の場合は…消滅することもある』

彼女は、夢をふくらませている私ががっかりするのではないかと、恐る恐る付け加えたが、私はこう彼女に聞いた。

人はいつ死ぬと思う…?
 心臓を銃で撃ち抜かれた時 …違う。
 不治の病に犯された時 …違う
 猛毒キノコのスープを飲んだ時 …違う!
 人に忘れられた時さ…!

 わたしには、もう怖いものはない!」

話を聞いていた彼女は豪快に笑い、こう言った。

『心の準備をしっかりしてきたのね!
 私もキミのように準備ができている。
 さあ、早く私に会いに来て』

私は最後に、これまでの自分の世界を見た。私が眠れない夜を迎える度に、子守唄を歌ってくれたフィギュアたち、特典グッズが入っている宝箱。
そして…私が【約束の日】を待つ間、力になってくれた、たくさんのマンガ。
すべてを目に焼きつけてから、背を向けた。向こうから、少女の声に他の声が重なって聞こえてくる。

「他に誰かいるの?」

新しい仲間かも知れないというワクワク感で心をくすぐられた。
会えたらどんな風に自己紹介をしようか…?

こうして大きい決断をしたあと、私は光り輝く扉の中へと足を踏み入れた。


※集英社『ONE PIECE』第16巻 第145話より