ドーパミン
~ MC少女の話 ~
「私の行く先がどこであろうと、
きっとそこはドーパミンでいっぱいになる!」
「テレビを見て真似したのが始まりです。トークが上手な人を見ていると、憧れの気持ちが
とめどなく溢れ出てくるというか」
両手をぎゅっと握って、うっとりした表情で空を見つめる!
さり気なく横に置かれた鏡に視線を向け、表情を確認するのを忘れないこと。
うん、いいね。可愛い顔、異常なし!
今度は、MCドーパミンモード。軽く体を回転させ、主人公ドーパミンにインタビューをする。
「子どもの頃から才能があったんですね。さすがです~ ダンスに歌に!MCに!
これぞ『完璧』というのでは?」
相手と目を合わせ、程よいうなずきと手振りで応じる。いいMCの基本!
体をくるりと回転させれば、またしても主人公ドーパミンが登場!はにかんだ顔に笑みを浮かべてコクリとうなずいたら、次は自信満々に言うのよ!
「褒めていただきありがとうございます。期待に応えられるよう精一杯頑張ります!」
ハキハキと挨拶。
そして、MCドーパミンが拍手!
「以上、大人気アイドル、ドーパミンでした」
MCドーパミンも挨拶!
元気ハツラツに何度も頭を下げ、挨拶をする。もちろんここは、私しかいないガランとしたバスケコート。観客は一人もいないけど、私には聞こえる。私と、今紹介したアイドルに向けられた割れんばかりの拍手が!
いつかは本当に聞けるよね?想像の中の声ではなくて、耳に刺さるほどの大きな歓声が。
***
じゃあ、今度は真剣モードで司会進行してみようかな?喉を鳴らし、落ち着いたトーンで質問を投げる。
「この度アイドルへの転身を決意されたとか?」
アイドルへの転身を決めたMCドーパミン。インタビューの相手は、今度も私自身だ。
「幼い頃から人前で話すことが好きだったんです。たくさんの人がキラキラした目で私を見ている光景は本当に美しくて…多分ステージに立ったことがある人なら、この気持ち分かるはずです!」
「そうですよね」とうなずく。要所要所で相手の言葉に共感してあげることは、いいMCの基本的な態度。
「だから、今まではMCとして、皆さんが心待ちにしているアイドルたちを紹介してきたんです!
そしてある時、私がステージで紹介される側になったらどうかなって、思い始めたんです!」
「だけどMCとしてのドーパミンさんも、間違いなく幸せでしたよね?」
自分自身に投げかけた意味深な質問。私は迷うことなく、首を縦にふることができた。
「初めてステージに立った時から私はステージに立つ運命なんだと思ったんです。
それがいつだっけ…?」
ああ、覚えてる。私は目をつぶり、当時の記憶を振り返った。
「誰もが自分ばかり目立とうとして妙な空気になったところで、
ジャジャーン!私が登場したんです!」
一人ひとり、ステージに立った彼らを一列に並ばせて紹介していると、あっという間に雰囲気はきれいにまとまった。飽きていた客席も、いつの間にかステージに注目していた。集中力を失いボーッとしていた目が、一瞬にして期待感が宿った。
「その瞬間でした。私の運命を確信した瞬間です。
ドーパミン!ステージを席巻するスターの登場だ!」
1人でいる時も鏡を見て一生懸命練習した。表情、話し方、手振り、相づちの打ち方。要所要所で、間延びした空気を打破するための持ちネタに至るまで。
「だけど、心の片隅がぽっかりと空いていました。誰かを紹介してステージを降りるのではなく、
もっと多くのドーパミンを与えられるステージを、自分が作りたいと思うようになったんです」
架空のインタビューだけど心がドキドキした。私はすっと席を立ち、決心したかのように拳を強く握り叫んだ。
「なれる!MCに紹介されて、華やかに登場するステキなアイドルに!みんなが待ちわび、
もっと大きな喜びと幸せを与えられる、そんなドーパミンに!」
キラキラ輝く目で空を見上げた。空に浮かんでいる、ある星が輝いた。ステージに立つと、ひとつひとつがはっきりと見える、ペンライトのように。
***
『ドーパミンさん!』
自分自身をインタビューしていたその時。キラリと星が輝いたその時だった。バスケコートの真ん中に青色の何かが揺らめき、その向こうから声が聞こえてきた。奇妙なことなのに、なぜか怖い感じはない。運命に導かれるように、そっと近づいていった。そんな状況でも、MCとしての本能が刺激され、声の主に質問を投げた。
「ステキな声の主が、ここにいらっしゃいました!自己紹介をお願いします」
『私は…■■■』
少女が口を開いた。耳ではなく心に響くステキな声だ。
「名前まで美しいあなた!さあ、ここに来た理由は?」
『キミと夢を叶えに来た』
その瞬間、まるで少女と共鳴したかのようだった。頭の中で絵が描かれるように、あらゆる風景がよぎった。
期待と憧れに満ちた目でステージを見守る観客たち。カッコいい照明。よく響くマイク。一点に向けられた数台ものカメラ。だけどまだ誰もいない、ガランとしたステージ。心臓が躍るように脈を打つ。観客たちが待っているのにステージに誰もいないなんて、ありえないでしょ?
「私、あなたが何を言い出すか分かる気がする!」
その瞬間、一歩足を踏み出し、今回だけはMCの役目を捨てて自分から言った。感極まって、立ちくらみがしていたほどだ。
「今でしょ?」
ようやく、その先の空間が、かすかに見えてきた。
まさにあそこから始まるのね?私の才能と実力でいっぱいにしてあげる。私が行く先がどこであろうと、きっとそこはドーパミンでいっぱいになる。
こうして私は新たな世界へと足を踏み出し、叫んだ。
「最高の幸せを届けるあなたのドーパミン!今駆けつけます!」
~ MC少女の話 ~
「私の行く先がどこであろうと、
きっとそこはドーパミンで
いっぱいになる!」
「テレビを見て真似したのが始まりです。トークが
上手な人を見ていると、憧れの気持ちがとめどなく
溢れ出てくるというか」
両手をぎゅっと握って、うっとりした表情で空を見つめる!さり気なく横に置かれた鏡に視線を向け、表情を確認するのを忘れないこと。
うん、いいね。可愛い顔、異常なし!
今度は、MCドーパミンモード。軽く体を回転させ、主人公ドーパミンにインタビューをする。
「子どもの頃から才能があったんですね。
さすがです~ ダンスに歌に!MCに!
これぞ『完璧』というのでは?」
相手と目を合わせ、程よいうなずきと手振りで応じる。いいMCの基本!
体をくるりと回転させれば、またしても主人公ドーパミンが登場!はにかんだ顔に笑みを浮かべてコクリとうなずいたら、次は自信満々に言うのよ!
「褒めていただきありがとうございます。
期待に応えられるよう精一杯頑張ります!」
ハキハキと挨拶。
そして、MCドーパミンが拍手!
「以上、大人気アイドル、ドーパミンでした」
MCドーパミンも挨拶!
元気ハツラツに何度も頭を下げ、挨拶をする。もちろんここは、私しかいないガランとしたバスケコート。観客は一人もいないけど、私には聞こえる。私と、今紹介したアイドルに向けられた割れんばかりの拍手が!
いつかは本当に聞けるよね?想像の中の声ではなくて、耳に刺さるほどの大きな歓声が。
***
じゃあ、今度は真剣モードで司会進行してみようかな?喉を鳴らし、落ち着いたトーンで質問を投げる。
「この度アイドルへの転身を決意されたとか?」
アイドルへの転身を決めたMCドーパミン。インタビューの相手は、今度も私自身だ。
「幼い頃から人前で話すことが好きだったんです。
たくさんの人がキラキラした目で私を見ている
光景は本当に美しくて… 多分ステージに立った
ことがある人なら、この気持ち分かるはずです!」
「そうですよね」とうなずく。要所要所で相手の言葉に共感してあげることは、いいMCの基本的な態度。
「だから、今まではMCとして、皆さんが心待ちに
しているアイドルたちを紹介してきたんです!
そしてある時、私がステージで紹介される側に
なったらどうかなって、思い始めたんです!」
「だけどMCとしてのドーパミンさんも、間違いなく
幸せでしたよね?」
自分自身に投げかけた意味深な質問。私は迷うことなく、首を縦にふることができた。
「初めてステージに立った時から私はステージに
立つ運命なんだと思ったんです。
それがいつだっけ…?」
ああ、覚えてる。私は目をつぶり、当時の記憶を振り返った。
「誰もが自分ばかり目立とうとして
妙な空気になったところで、ジャジャーン!
私が登場したんです!」
一人ひとり、ステージに立った彼らを一列に並ばせて紹介していると、あっという間に雰囲気はきれいにまとまった。飽きていた客席も、いつの間にかステージに注目していた。集中力を失いボーッとしていた目が、一瞬にして期待感が宿った。
「その瞬間でした。私の運命を確信した瞬間です。
ドーパミン!
ステージを席巻するスターの登場だ!」
1人でいる時も鏡を見て一生懸命練習した。表情、話し方、手振り、相づちの打ち方。要所要所で、間延びした空気を打破するための持ちネタに至るまで。
「だけど、心の片隅がぽっかりと空いていました。
誰かを紹介してステージを降りるのではなく、
もっと多くのドーパミンを与えられるステージ
を、自分が作りたいと思うようになったんです」
架空のインタビューだけど心がドキドキした。私はすっと席を立ち、決心したかのように拳を強く握り叫んだ。
「なれる!MCに紹介されて、華やかに登場する
ステキなアイドルに!
みんなが待ちわび、もっと大きな喜びと幸せを
与えられる、そんなドーパミンに!」
キラキラ輝く目で空を見上げた。空に浮かんでいる、ある星が輝いた。ステージに立つと、ひとつひとつがはっきりと見える、ペンライトのように。
***
『ドーパミンさん!』
自分自身をインタビューしていたその時。キラリと星が輝いたその時だった。バスケコートの真ん中に青色の何かが揺らめき、その向こうから声が聞こえてきた。奇妙なことなのに、なぜか怖い感じはない。運命に導かれるように、そっと近づいていった。そんな状況でも、MCとしての本能が刺激され、声の主に質問を投げた。
「ステキな声の主が、ここにいらっしゃいました!
自己紹介をお願いします」
『私は…■■■』
少女が口を開いた。耳ではなく心に響くステキな声だ。
「名前まで美しいあなた!
さあ、ここに来た理由は?」
『キミと夢を叶えに来た』
その瞬間、まるで少女と共鳴したかのようだった。頭の中で絵が描かれるように、あらゆる風景がよぎった。
期待と憧れに満ちた目でステージを見守る観客たち。カッコいい照明。よく響くマイク。一点に向けられた数台ものカメラ。だけどまだ誰もいない、ガランとしたステージ。心臓が躍るように脈を打つ。観客たちが待っているのにステージに誰もいないなんて、ありえないでしょ?
「私、あなたが何を言い出すか分かる気がする!」
その瞬間、一歩足を踏み出し、今回だけはMCの役目を捨てて自分から言った。感極まって、立ちくらみがしていたほどだ。
「今でしょ?」
ようやく、その先の空間が、かすかに見えてきた。
まさにあそこから始まるのね?私の才能と実力でいっぱいにしてあげる。私が行く先がどこであろうと、きっとそこはドーパミンでいっぱいになる。
こうして私は新たな世界へと足を踏み出し、叫んだ。
「最高の幸せを届けるあなたのドーパミン!
今駆けつけます!」