ニモ
~ 魚の少女の話 ~
「ニモ、キミはもっと広い世界に出なきゃダメだ」
「はぁ、今日も海は平和だ」
ニモは心地よい波に身をゆだね、泳いでいた。のんびりした、ある日の午後。岩の洞窟のほうから誰か泣いている声がした。
「一体いつになれば、できるようになるのかな…」
声がするほうに近づくと、イルカが身を潜めて泣いていた。ニモはそっと声をかける。
「あの…どうかしたの?」
他に誰もいないと思っていたのか、驚いたイルカは、ためらうようにして話し始めた。
「…ボクだけ、水面より上にジャンプすることができないんだ。
ボクもみんなみたいに飛びたいのに」
じっと話を聞いていたニモは、どんな声を掛けるべきか、慎重に言葉を選んでいた。悩んでいる友達に、どんな言葉を掛けてあげようか。
「そう心配するな」? もしくは、「時間が経てば解決するさ」?それとも、「すぐに世界で一番カッコいいジャンプができるようになるはずさ」?
だけど、そんな言葉は今までにもたくさん聞いているはずだから、できることをしてあげることにした。
「ちょっと待ってて。キミを笑顔にしてあげるよ!」
ニモは最近習い始めたばかりの、下手っぴなダンスを披露することにした。
ダンスを見て、気分が晴れるといいんだけど。
♩ ♪ ♫ ♬
慣れないダンスを踊るニモ。イルカは何が起きたのか分からず、状況に戸惑うなか、ニモが石につまずいてよろけた。笑いは世界共通とは、よく言ったもの。ニモも意図せず、イルカを笑わせることができた。
「おや?笑った!少しは気分がマシになった?」
「…ありがとう、ニモ」
たいしたことは言っていないし、イルカの問題が解決したわけでもないけど、さっきよりもっと波が温かく感じられた。
「すぐに解決しなくても、それでもキミには幸せでいてほしい」
ニモの言葉を聞いたイルカは、コクリとうなずき去っていった。
悲しみに暮れるすべての人を幸せにすることはできないけど、それでも自分にできることがしたいとニモを思った。
***
数か月後、同じ場所でのんびり過ごしていたニモは、悲しんでいたイルカと再会した。
「ニモ、ここに来ればまたキミに会えると思っていたよ」
「また、ダンスを見に来たの?」
イルカは、前より明るい笑顔でこう言った。
「キミに伝えたいことがあって来たんだ。
ボクが前に言っていた例のジャンプだけど、
なんとか水面上までジャンプできたんだ」
ニモは笑顔で、イルカの次の言葉を待った。
「あの時、何も言わないで、ただ踊ってくれてありがとう。
どうしてもお礼を言いたくて」
ニモは明るくなったイルカの姿につられて自分までうれしくなり、こう言った。
「じゃあ今度は、お祝いとして歌を歌うよ!」
イルカはククッと笑いながら、ダンスのような下手っぴな歌が始まるのを待った。だけどニモの歌は、ダンスとは違って、とても美しいものだった。
♩ ♪ ♫ ♬
目を閉じて歌っていたニモはそっと目を開け、イルカのほうを見た。
なぜか真剣な表情のイルカに、ニモは思わずこう聞いた。
「どうしたの? もっと愉快な歌を聴かせようか?」
「ニモ、キミはもっと広い世界に出なきゃダメだ」
イルカは静かに言った。
「それ、どういう意味?」
「今日ジャンプした時に、船というものを見たんだけど、そこにも泣いている人たちがいたんだ」
イルカは続けた。
「みんな、キミの歌が必要だ。ボクがキミのダンスを見て、翌朝ジャンプをしに行けたように」
海にいる人たち以外も、癒やすことができる…?
そこで幼い頃の話を思い出した。幼い頃、ママは童話を読んでくれる代わりに、海の物語を聞かせてくれた。
「ニモ、海は広いわ。だけど海の向こうには、もっと新しい世界があるのよ。
いつか心の声に従ってみなさい」
海の向こうにも新しく出会える友達がいる。ニモは、なぜかドキドキしはじめた。
~ 魚の少女の話 ~
「ニモ、キミはもっと広い世界に
出なきゃダメだ」
「はぁ、今日も海は平和だ」
ニモは心地よい波に身をゆだね、泳いでいた。のんびりした、ある日の午後。岩の洞窟のほうから誰か泣いている声がした。
「一体いつになれば、できるようになるのかな…」
声がするほうに近づくと、イルカが身を潜めて泣いていた。ニモはそっと声をかける。
「あの…どうかしたの?」
他に誰もいないと思っていたのか、驚いたイルカは、ためらうようにして話し始めた。
「…ボクだけ、水面より上に
ジャンプすることができないんだ。
ボクもみんなみたいに飛びたいのに」
じっと話を聞いていたニモは、どんな声を掛けるべきか、慎重に言葉を選んでいた。悩んでいる友達に、どんな言葉を掛けてあげようか。
「そう心配するな」? もしくは、「時間が経てば解決するさ」?それとも、「すぐに世界で一番カッコいいジャンプができるようになるはずさ」?
だけど、そんな言葉は今までにもたくさん聞いているはずだから、できることをしてあげることにした。
「ちょっと待ってて。キミを笑顔にしてあげるよ!」
ニモは最近習い始めたばかりの、下手っぴなダンスを披露することにした。
ダンスを見て、気分が晴れるといいんだけど。
♩ ♪ ♫ ♬
慣れないダンスを踊るニモ。イルカは何が起きたのか分からず、状況に戸惑うなか、ニモが石につまずいてよろけた。笑いは世界共通とは、よく言ったもの。ニモも意図せず、イルカを笑わせることができた。
「おや?笑った!少しは気分がマシになった?」
「…ありがとう、ニモ」
たいしたことは言っていないし、イルカの問題が解決したわけでもないけど、さっきよりもっと波が温かく感じられた。
「すぐに解決しなくても、それでもキミには
幸せでいてほしい」
ニモの言葉を聞いたイルカは、コクリとうなずき去っていった。
悲しみに暮れるすべての人を幸せにすることはできないけど、それでも自分にできることがしたいとニモを思った。
***
数か月後、同じ場所でのんびり過ごしていたニモは、悲しんでいたイルカと再会した。
「ニモ、ここに来ればまたキミに会えると
思っていたよ」
「また、ダンスを見に来たの?」
イルカは、前より明るい笑顔でこう言った。
「キミに伝えたいことがあって来たんだ。
ボクが前に言っていた例のジャンプだけど、
なんとか水面上までジャンプできたんだ」
ニモは笑顔で、イルカの次の言葉を待った。
「あの時、何も言わないで、ただ踊ってくれて
ありがとう。どうしてもお礼を言いたくて」
ニモは明るくなったイルカの姿につられて自分までうれしくなり、こう言った。
「じゃあ今度は、お祝いとして歌を歌うよ!」
イルカはククッと笑いながら、ダンスのような下手っぴな歌が始まるのを待った。だけどニモの歌は、ダンスとは違って、とても美しいものだった。
♩ ♪ ♫ ♬
目を閉じて歌っていたニモはそっと目を開け、イルカのほうを見た。
なぜか真剣な表情のイルカに、ニモは思わずこう聞いた。
「どうしたの?
もっと愉快な歌を聴かせようか?」
「ニモ、キミはもっと広い世界に出なきゃダメだ」
イルカは静かに言った。
「それ、どういう意味?」
「今日ジャンプした時に、船というものを見たんだ
けど、そこにも泣いている人たちがいたんだ」
イルカは続けた。
「みんな、キミの歌が必要だ。
ボクがキミのダンスを見て、翌朝ジャンプをしに
行けたように」
海にいる人たち以外も、癒やすことができる…?
そこで幼い頃の話を思い出した。幼い頃、ママは童話を読んでくれる代わりに、海の物語を聞かせてくれた。
「ニモ、海は広いわ。
だけど海の向こうには、もっと新しい世界が
あるのよ。いつか心の声に従ってみなさい」
海の向こうにも新しく出会える友達がいる。ニモは、なぜかドキドキしはじめた。