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キム・セレナ

~ 「爆上げ」を夢見る話 ~

「私、世界で一番正直で人気のアイドルになる!」

「Hey Siri、経済の最新ニュースを教えて」

「Daily brief; dollar falls against…」

最近の経済状況は芳しくない。しかし、そんな時ほど平常心を保たなければならない。
朝の眩しい太陽が照らす街を窓から眺めながら、目覚めの一杯にコーヒーを飲む。

朝8時15分。人間の感覚が、最も研ぎ澄まされる時間。
朝は決まって訪れるのに、毎日違う緊張感。

今日もいつものように取引開始を待ちながら、心の修練をしていた時だった。
着信音が鳴り、株友達かぶとものガブリエルからメールが来た。

[Web配信]
ヴァーチュエンタ
新人アイドルデビュー予定
今にストップ高達成
目標価格XXX,XXXウォン
ひとつ、いい情報をつかんだ。
今日買うしかない。連絡を。



「これは…!」

人によっては「Web配信」だけでスパムと判断しかねない内容。しかし、真の投資家はダイヤの原石を見極める。「ヴァーチュエンタ」を目にした途端、脈拍が速くなった。

私はキム・セレナ。よちよち歩きの頃から歌とダンスが好きで、歌手を夢見たこともあったわ。けれど流されるままに生きてきたし、夢を追い続けることも簡単ではなかった。

だけど、興味は持ち続けた。ヴァーチュエンタは特に人材発掘に定評がある。

そんな会社から新人アイドルがデビューするって?

これは、夢を諦めながらも、現実を受け止めて生きる大人に与えられたプレゼントじゃない…!そんなふうに、「投資で満足しようとする自分」を大人になったと思うと同時に、運命を感じた私は、狐につままれたように有り金をはたいた。

「運命の全力買い、行くよ!」

***

運命どころか、翌日の株式市場で株価チャートは真っ青に下がり続けた。

私の大切なお金が! これは何かの間違いよ。信じられなくて、何度も取引画面を閉じては開き、インストールしたアプリを削除してみたりもした。

「どうして上昇に転じる気配がないのよ!」

ヴァーチュエンタで検索してやっと理由が分かった。

[ヴァーチュエンタ レゴラスに熱愛報道!]

世界中で愛されているアイドル・レゴラスの恋愛スキャンダルだった。それでもコーヒーを一緒に飲んでいる場面を撮られただけで、株価が暴落するとは。アイドルは、人間じゃないのかしら…?

上昇に転じる気配もなく一日が終わり、翌日を迎えた。起床と同時に取引画面を開き、陰線あおの洗礼と終わりなく続くストップ安に、ほとんど正気を失っていた。一体なぜこんなことになったの? またすぐに、ヴァーチュエンタで検索した。

[ヴァーチュエンタ ロミオ ステージでのおならがバレた!]

???

レゴラスの次にヴァーチュエンタで人気のあるロミオがおならをしたのだが、偶然にも会場が静まり返る瞬間と重なり、バレてしまったというのだ。その上、推しカメラにも音を拾われ、ネット上で永遠に残ることに…。

だけど、たかが生理現象で株価に影響するなんて、あきれて笑うしかないわね。

頭を空っぽにするため、毎朝公園の遊具で体を動かしてみるが、無意味だった。もう青いものを見ただけでパニックを起こしそうになる。このまま全財産を失うわけにはいかない!何か手を打つしかないわ。

***

私は覚悟を決めた。ヴァーチュエンタを薦めたガブリエルとはとっとと縁を切ったし、居ても立っても居られずヴァーチュエンタの本社まで行って、拡声器で叫んだ。

「新人アイドルのデビューはいつだ!」

ヴァーチュエンタ側の反応はない。

「デビューするはずでしょ! なぜデビューしないの!」

建物の中には誰もいないかのように、物音ひとつ聞こえてこない。まさかペーパーカンパニー?建物に入ろうとした瞬間、どこからともなく吹いてきた風とともに、一枚の紙切れが足元に落ちた。

[急募]アイドルオーディション

街中で見かける指名手配の張り紙のような、アイドルオーディションに関する広告だった。

「まもなくデビューするはずでしょ!どうして今頃オーディションなんかやってるのよ!」

募集広告を拾い上げた手が怒りで震え始めた。私が買った株はどうなるのよ!今まで貯めた私の全財産が…。

しかし、何も変わらなかった。ひとり疲れ果て、何の収穫もないまま家に着いた時、ポストにチラシが挟まっていた。無意識に手にした紙には、見覚えのある言葉が書かれていた。

[急募]アイドルオーディション

ヴァーチュエンタ社の前で見たチラシが、自宅のポストにも入っていたのだ。

「なぜ、これがここにあるの?」

再び怒りがこみ上げてきそうになった瞬間、頭の中でそろばんが弾かれた。

   前提1:オーディションに参加=アイドルデビュー
   前提2:アイドルデビュー=ヴァーチュエンタ株が爆上がり

だとすれば結論は…?
「オーディション参加=アイドルデビュー=ヴァーチュエンタ株が爆上がり」!?!?
拡声器なんか持っていって、なんて無駄なことをしたんだろう。私がアイドルになればいいじゃない。私がデビューして、お金も取り戻して、オナラなんて理由でステージを降ろされるようなアイドル文化も変えてやる!世界で一番正直で人気のアイドルになる!

もしかしたらこれはチャンスかも知れないという考えがよぎった。現実との狭間で、今までは夢を忘れて生きてきたけど、これは夢を叶えるチャンスだ。

私はチラシを手に握ったまま、ヴァーチュエンタ社に向かった。ヴァーチュエンタ社の扉の隙間から青い光が漏れていた。

「デビューして爆上げいくぞ!アハハハハハ!」

湧き上がる希望を抱いて、輝く扉の先に足を踏み入れた。炎のようなぬくもりに身を包み込まれるようにして、私は新しい世界に出会った。



~ 「爆上げ」を夢見る話 ~

「私、世界で一番正直で     
     人気のアイドルになる!」

「Hey Siri、経済の最新ニュースを教えて」

「Daily brief; dollar falls against…」

最近の経済状況は芳しくない。しかし、そんな時ほど平常心を保たなければならない。
朝の眩しい太陽が照らす街を窓から眺めながら、目覚めの一杯にコーヒーを飲む。

朝8時15分。人間の感覚が、最も研ぎ澄まされる時間。朝は決まって訪れるのに、毎日違う緊張感。

今日もいつものように取引開始を待ちながら、心の修練をしていた時だった。着信音が鳴り、株友達かぶとものガブリエルからメールが来た。

[Web配信]
ヴァーチュエンタ
新人アイドルデビュー予定
今にストップ高達成
目標価格XXX,XXXウォン
ひとつ、いい情報をつかんだ。
今日買うしかない。連絡を。



「これは…!」

人によっては「Web配信」だけでスパムと判断しかねない内容。しかし、真の投資家はダイヤの原石を見極める。「ヴァーチュエンタ」を目にした途端、脈拍が速くなった。

私はキム・セレナ。よちよち歩きの頃から歌とダンスが好きで、歌手を夢見たこともあったわ。けれど流されるままに生きてきたし、夢を追い続けることも簡単ではなかった。

だけど、興味は持ち続けた。ヴァーチュエンタは特に人材発掘に定評がある。

そんな会社から新人アイドルがデビューするって?

これは、夢を諦めながらも、現実を受け止めて生きる大人に与えられたプレゼントじゃない…!そんなふうに、「投資で満足しようとする自分」を大人になったと思うと同時に、運命を感じた私は、狐につままれたように有り金をはたいた。

「運命の全力買い、行くよ!」

***

運命どころか、翌日の株式市場で株価チャートは真っ青に下がり続けた。

私の大切なお金が! これは何かの間違いよ。信じられなくて、何度も取引画面を閉じては開き、インストールしたアプリを削除してみたりもした。

「どうして上昇に転じる気配がないのよ!」

ヴァーチュエンタで検索してやっと理由が分かった。

[ヴァーチュエンタ レゴラスに熱愛報道!]

世界中で愛されているアイドル・レゴラスの恋愛スキャンダルだった。それでもコーヒーを一緒に飲んでいる場面を撮られただけで、株価が暴落するとは。アイドルは、人間じゃないのかしら…?

上昇に転じる気配もなく一日が終わり、翌日を迎えた。起床と同時に取引画面を開き、陰線あおの洗礼と終わりなく続くストップ安に、ほとんど正気を失っていた。一体なぜこんなことになったの? またすぐに、ヴァーチュエンタで検索した。

[ヴァーチュエンタ ロミオ
ステージでのおならがバレた!]

???

レゴラスの次にヴァーチュエンタで人気のあるロミオがおならをしたのだが、偶然にも会場が静まり返る瞬間と重なり、バレてしまったというのだ。その上、推しカメラにも音を拾われ、ネット上で永遠に残ることに…。

だけど、たかが生理現象で株価に影響するなんて、あきれて笑うしかないわね。

頭を空っぽにするため、毎朝公園の遊具で体を動かしてみるが、無意味だった。もう青いものを見ただけでパニックを起こしそうになる。このまま全財産を失うわけにはいかない!何か手を打つしかないわ。

***

私は覚悟を決めた。ヴァーチュエンタを薦めたガブリエルとはとっとと縁を切ったし、居ても立っても居られずヴァーチュエンタの本社まで行って、拡声器で叫んだ。

「新人アイドルのデビューはいつだ!」

ヴァーチュエンタ側の反応はない。

「「デビューするはずでしょ!
なぜデビューしないの!」

建物の中には誰もいないかのように、物音ひとつ聞こえてこない。まさかペーパーカンパニー?建物に入ろうとした瞬間、どこからともなく吹いてきた風とともに、一枚の紙切れが足元に落ちた。

[急募]アイドルオーディション

街中で見かける指名手配の張り紙のような、アイドルオーディションに関する広告だった。

「まもなくデビューするはずでしょ!どうして
今頃オーディションなんかやってるのよ!」

募集広告を拾い上げた手が怒りで震え始めた。私が買った株はどうなるのよ!今まで貯めた私の全財産が…。

しかし、何も変わらなかった。ひとり疲れ果て、何の収穫もないまま家に着いた時、ポストにチラシが挟まっていた。無意識に手にした紙には、見覚えのある言葉が書かれていた。

[急募]アイドルオーディション

ヴァーチュエンタ社の前で見たチラシが、自宅のポストにも入っていたのだ。

「なぜ、これがここにあるの?」

再び怒りがこみ上げてきそうになった瞬間、頭の中でそろばんが弾かれた。

前提1:オーディションに参加=アイドルデビュー
前提2:アイドルデビュー=ヴァーチュエンタ株が爆上がり

だとすれば結論は…?
「オーディション参加=アイドルデビュー
=ヴァーチュエンタ株が爆上がり」!?!?
拡声器なんか持っていって、なんて無駄なことをしたんだろう。私がアイドルになればいいじゃない。私がデビューして、お金も取り戻して、オナラなんて理由でステージを降ろされるようなアイドル文化も変えてやる!世界で一番正直で人気のアイドルになる!

もしかしたらこれはチャンスかも知れないという考えがよぎった。現実との狭間で、今までは夢を忘れて生きてきたけど、これは夢を叶えるチャンスだ。

私はチラシを手に握ったまま、ヴァーチュエンタ社に向かった。ヴァーチュエンタ社の扉の隙間から青い光が漏れていた。

「デビューして爆上げいくぞ!アハハハハハ!」

湧き上がる希望を抱いて、輝く扉の先に足を踏み入れた。炎のようなぬくもりに身を包み込まれるようにして、私は新しい世界に出会った。